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戦後の日本の税制に大きく影響を及ぼしたのはシャベル勧告。相続税と贈与税は、このシャベル勧告に基づいて行われた昭和22年の税制改正の影響が大きいといわれています。今日の相続税・贈与税を説明するには欠かすことのできない、シャベル勧告について解説します。

日本の相続税、贈与税の原則とシャベル勧告の内容

シャベル勧告は、当時の相続税の税制上の問題点を指摘した勧告です。シャベル勧告の指摘内容がすべて税制改正に盛り込まれたわけではありませんが、改正内容に大きく影響を及ぼしました。

 

■民法改正に伴う家督相続と遺産相続の区分税率の廃止

第二次世界大戦終結後に民法も改正され、民法改正内容の一つに家督相続の廃止がありました。相続税は民法を基礎とした税金のため、民法改正で家督相続と遺産相続の境目がなくなったこともあり、シャベル勧告で課税区分が廃止することが提言されました。

 

■相続税の最低税率引き下げと最高税率引上げ

シャベル勧告では、相続税の最低税率(1.5%)の引き下げと、最高税率(55%)の引き上げが提言されました。

 

相続税による税収確保の観点もありましたが、最大の目的は戦後の財閥解体後に富が集中することを防ぐことでした。

 

■生前贈与に対する贈与税の創設

相続税が創設される以前は、一部の財産に対してのみ相続税として課税をしていましたが、シャベル勧告により贈与税を創設する提言がされました。

 

なおシャベル勧告で提言されたのは贈与者の一生を通じた贈与財産の累積額に対して贈与税を課税する方式であり、現在の贈与税のように1年ごとに計算する方式とは異なります。

 

■賦課課税制度から申告納税制度への転換

賦課課税制度とは、国や地方自治体が納める税金の金額を計算し対象者に納税額を通知する制度で、現在は固定資産税や住民税などが賦課課税制度を採用しています。

 

一方、申告納付制度は対象者が自分で納める税金を計算し申告・納付する制度で、現在の所得税や相続税および贈与税などが該当します。

 

シャベル勧告以前の相続税は賦課課税制度により課税されていましたが、勧告以後は今日の相続税でも採用されている申告納税制度に変更しました。

シャベル勧告に基づく、昭和22年の税制改正の内容

シャベル勧告は日本の相続税(贈与税)の問題点を指摘した内容でしたが、シャベル勧告の内容をそのまま採用したわけではありません。そのため、昭和22年の税制改正ではシャベル勧告での提言とは異なる改正もされています。

 

■家督相続は廃止されたが親疎によって異なる税率が適用された

昭和22年改正で家督相続と遺産相続による課税区分は廃止されましたが、新たに被相続人と相続人の続柄によって税率が異なる方式での課税区分に変更しました。

 

<昭和22年改正による課税区分の違い>

第一種(直系卑属)

第二種(直系尊属・兄弟姉妹)

第三種(その他)

 

課税区分が廃止されたのは昭和25年であり、それ以後の相続税ではどの相続人(受遺者)が財産を取得しても同じ税率が適用されるようになりました。

 

なお課税区分は廃止されましたが、現在の相続税では一親等以外の血族が相続した場合、算出された相続税に対して2割加算する制度が適用されています。

 

■相続税の税率は中間層に負担が多くなる折衷案を採用

シャベル勧告では相続税の税率を1.5%~55%にする提言がされましたが、税制改正では税率は10%~最高65%(第三種)までと、最低税率の引き上げがされました。

 

シャベル勧告とは異なる税率を採用した背景には、戦後の税収を確保するために相続税の課税財産の中心である、中小資産階層に課税せざるを得ない状況がありました。

 

■生前贈与に対する贈与税の制度が創設された

シャベル勧告では、相続税と贈与税を統合する形の税制が進言されましたが、大蔵省主税局(当時)が難色を示し、実際の法案では相続税と贈与税を分離した形で改正されました。

 

昭和25年の税制改正で贈与税は相続税と統合されますが、昭和28年に贈与税は復活し、現在の贈与税と同じ形に至ります。

次ページ相続税の制度は時代によって変化する税金

本連載は、税理士法人チェスターが運営する「税理士が教える相続税の知識」内の記事を転載・再編集したものです。

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