(※写真はイメージです/PIXTA)

有名人の不倫がメディアで取り上げられ、時に犯罪者のような扱いをされますが、姦通罪は昭和22年に廃止されたため、不貞行為は刑法上の犯罪に該当しません。しかしながら、民事上の損害賠償(慰謝料)請求の対象にはなります。どのような場合に慰謝料が認められるのでしょうか。また、不貞行為は離婚事由になりますが、不貞行為をした配偶者からの離婚請求は認められるのでしょうか。落語『紙入れ』の旦那、女房及び新吉を例にして解説します。女房と新吉は既に情交関係をもっていたことを前提にします。※本連載は、弁護士・森章太氏の著書『落語でわかる「民法」入門』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「浮気相手への慰謝料請求」は否定されるべき?

【おわりに】

不貞行為を行うことを自由に意思決定している限り、不貞配偶者がすべての責任を負うべきであり、不貞配偶者の相手方に対する慰謝料請求は原則として否定されるべきであるという見解があります。この見解と判例・実務のどちらに説得力があると考えますか。

 

<まとめ>

●夫婦の一方が不貞行為をした場合には、他方は不貞配偶者に対して貞操義務違反を理由として慰謝料請求が認められる。婚姻関係が既に破綻していたときは、慰謝料請求は認められない。

 

●不貞配偶者の相手方に対する慰謝料請求は、相手方により婚姻共同生活の平和の維持という権利などが侵害された場合に認められる。婚姻関係が既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、慰謝料請求は認められない。

 

●有責配偶者からなされた離婚請求であっても、認められる場合がある。

コラム:このケース、慰謝料請求は認められる?

【不貞行為を行った同性パートナーに対する慰謝料請求】

同性パートナーの不貞行為に対して慰謝料請求をした場合、認められるのでしょうか。同性婚は認められていないため問題となります。

 

東京高裁令和2年3月4日判決・裁判所Webは、少なくとも民法上の不法行為に関して、婚姻に準ずる関係から生じる法律上保護される利益を有するとして、慰謝料100万円及び弁護士費用10万円の合計110万円の限度で請求を認めました。

 

【不貞配偶者の相手方に対する離婚に伴う慰謝料請求】

不貞配偶者の相手方に離婚に伴う慰謝料を請求した場合、認められるのでしょうか。不貞行為を理由とする慰謝料が(不貞行為を知った時から3年間経過するなどして)時効によって消滅して請求できない場合に問題となります。

 

最高裁平成31年2月19日判決・裁判所Webは、「夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、」「【直ちに】、当該夫婦を離婚させたことを理由とする【不法行為責任を負うことはない】と解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られる」(【】は著者追加)と判示しました。

 

離婚は夫婦の自由意思によって決められるのであって、原則として第三者が配偶者の地位を直接的に侵害したとはいえないことが理由になっていると考えられます。

 

 

森 章太

東京中央総合法律事務所 弁護士

落語でわかる「民法」入門

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