旦那は、女房・新吉に慰謝料を請求できる
【損害賠償請求】
(1)不貞配偶者に対する請求
夫婦は相互に貞操義務を負っており、夫婦の一方が不貞行為をした場合には、他方は不貞配偶者に対して貞操義務違反を理由として慰謝料を請求することが認められます(709条、710条)。ただし、婚姻関係が既に破綻していた場合は、貞操義務を負わないので、慰謝料請求は認められません。
婚姻関係の継続を望みながら、配偶者に慰謝料を請求することは多くないので、離婚に伴う慰謝料を請求し、その中に不貞慰謝料を含めることが多いです。
『紙入れ』の旦那は、女房に対して不貞行為を理由として慰謝料を請求することが認められます。なお、女房が旦那の行動はすべて自分の差し金であると述べているぐらいの仲ですので、婚姻関係の破綻は認められません。
(2)不貞配偶者の相手方に対する請求
不貞配偶者の相手方に対する慰謝料請求は、婚姻共同生活の平和の維持という権利などが侵害された場合に認められます(709条、710条)。ただし、婚姻関係が既に破綻していた場合は、権利などがあるとはいえないので、特段の事情のない限り、慰謝料請求は認められません(判例)。
『紙入れ』の旦那は、新吉に対して不貞行為を理由として慰謝料を請求することが認められます。
新吉が女房から誘惑され、旦那の行動はすべて自分の差し金であるといわれ、仮に断った場合には今後の仕事に影響するかのようにほのめかされたことは、旦那との関係では斟酌されない(共同不法行為者である女房との間で求償割合として斟酌されるにすぎない)とする見解と、旦那に支払う慰謝料の減額事由になるとする見解に分かれています。
(3)慰謝料請求の対象行為と金額
慰謝料請求の対象となる行為は、不貞行為(情交関係をもったこと)に限られず、広く捉えられています。電子メールでの身体的な接触を示唆する内容のやり取りについて、慰謝料請求を認容した裁判例があります。
請求が認められる慰謝料の金額は、夫婦間の婚姻期間の長短、未成熟子の有無、不貞行為開始時における夫婦の関係、不貞行為の期間・内容などが考慮されて決められます。高額であっても300万円以下となることが多いです。
(4)共同不法行為
不貞行為は、不貞配偶者とその相手方との共同不法行為になるので、両者は連帯して損害賠償責任を負います(719条1項)。共同不法行為者の一方に対しては債務を免除し、他方に対してのみ請求することもできます(441条)。
『紙入れ』の女房と新吉は連帯して損害賠償責任を負い、旦那は、両者またはいずれかに対して慰謝料を請求することができます。
共同不法行為者の1人が弁済すれば、他の連帯債務者の慰謝料債務も消滅します。そして、弁済した者は、他の者に対して、他の者の負担部分に応じた金額を求償請求(償還を求める権利を行使)することができます(442条1項)。
『紙入れ』の新吉が旦那に慰謝料を支払った場合、新吉は、女房に対して女房の負担部分に応じた金額を求償請求することができます。