「完全雇用」状態の様相を呈す米国労働市場
米国の中央銀行であるFRBが最も注意を払うものは、いうまでもなく、「物価」と「雇用」である。そのひとつ、「雇用」の状況を見極めるうえで重要な経済指標である10月の米国雇用統計が、先週11月6日夜(日本時間)に発表された。
10月の非農業部門雇用者数は前月対比で+27.1万人の増加と、市場の事前予想の+18.5万人を大幅に上回ったほか、この増加幅は年初来最高となった。失業率は5.0%(前月:5.1%、市場予想:5.0%)と、こちらは市場予想には一致して前月から小幅低下した。
このように、10月には雇用拡大のペースが大幅に再加速したため、8月の雇用統計以降に市場が懸念していた「労働市場の回復ペースが大幅に鈍化した」との見方は否定されたといえる。拡大を続けてきた米国経済は、依然として順調な雇用増加が持続しており、非常に堅調であると言えるだろう。
失業率に至っては、FRBが目標とする4.9%に近づき、こちらの改善基調も明確である。米国労働市場は、「完全雇用」状態と言っても過言ではない。
10月のFOMC会合では、次回12月の会合まで政策金利引上げの判断を先送りするとの表現が盛り込まれるなど、FRBの年内利上げに対する意欲は依然として衰えていない。
物価の面から見ても「利上げ判断」の材料は豊富
もうひとつ重要な「物価」は、インフレ率でFRBが目標とする2.0%を下回り続けているほか、ドル高や原油安、世界経済の成長鈍化の影響が、利上げに対する反対派の見方を支持してきたが、コモディティ価格の下落が攪乱要因であり、コアCPIは上昇していることは見落としてはならないだろう。
欧州・中国をはじめとする世界経済への先行き不透明感は残るものの、米資本市場が米国景気の拡大継続を受けて安定していることも利上げ判断には支援材料である。また、米国では、11月は小売売上高にとっても重要な時期である。ここで小売に、余程の弱い兆候でも見られなければ、12月のFOMCで利上げが決定される可能性が高まったと判断できよう。
ただ、来年に掛けて春以降も、米国の景気回復が持続しているかという話になると、現時点では判断が困難との見方が市場の大勢である。次の焦点は連続利上げが許容されるほど、米国経済の腰が強いのかというところにシフトしていくだろう。
なお、筆者は、米国経済については、引き続き強気の見方を堅持している。