Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

あらゆるものに反旗を翻す鬼っ子のような運動

ちゃぶ台返しの思考

 

あらゆるものに意義を唱える現代アートの姿勢はどこから来たのでしょう。

 

現代アートとは何かを明確にするために、近代アートからどんなふうに現代アートが生まれたかを説明しましょう。印象派などの近代アートと現代アートは、異なったルーツから生まれたかといえば、そうではなく、19世紀から20世紀の近代アートを経て、変質していったものが、今日の現代アートです。

 

20世紀の抽象芸術の巨匠の一人であるパウル・クレーの主著『造形思考』(ちくま学芸文庫)には、「芸術の本質は、見えるものをそのまま再現するのではなく、見えるようにすることにある」とあります。芸術は、単なる見えるものの再現から、「目に見えないものをいかに表現するか」というものに変化していきます。

 

印象派から抽象美術へという視覚的な造形革命を経て、現代アートはさらに劇的に変化しているという。(※写真はイメージです/PIXTA)
印象派から抽象美術へという視覚的な造形革命を経て、現代アートはさらに劇的に変化しているという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

それでもクレーの作品は、心など目に見えないものを色彩や形態に置き換えて造形的に表現していました。いくら抽象的とはいえ、まだ色や形があり、視覚的な造形に裏付けられたものだったのです。

 

印象派から抽象美術へという視覚的な造形革命を経て、現代アートはさらに劇的に変化していきます。アートが描く対象から自由になり、個性や内面の表出をするようになると、アーティストの興味はさらに広がり、例えば社会という、巨大で捉えどころのないものや、人間というもの、さらに、文明や文化、あるいは自然や環境といった、人間を取り囲むすべてのものへ広がっていきます。

 

そして大きく広がったテーマに対してアーティストが感じることや考えていることを、手法を問わずにそのまま作品にしていくということを行っていきます。この時点ですでに絵画や彫刻という形式を脱して、オブジェや言葉や身体表現など、様々な表現が出現して、どんな方法でもいいという状態になっていきます。

 

その始まりが、視覚芸術だけでなく、文学や音楽を巻き込んで起こったダダイズム運動です。あらゆるものに懐疑の目を向け、ぶち壊していく反言語、反芸術の運動で、人間存在の意味を根本から見つめ直した、一種の思想運動でもありました。

 

それは人類がはじめて経験した世界戦争のさなかの1916年にチューリッヒで誕生しました。まさに革命や戦争や収容所という人間が極限の状態に置かれた時代の中で生まれた精神の極北のようなアートで、あらゆるものに反旗を翻す鬼っ子のような運動でもあります。

 

この反芸術を現代アートの始まりと考えていいと思います。21世紀になった今日においても、現代アートの中には、どこかでダダイズムの精神を引き継いだ反骨精神が存在していますし、ちゃぶ台返しとも言える、すべてをゼロベースに戻して物事を捉え直す思想があるのです。

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アート思考

アート思考

秋元 雄史

プレジデント社

世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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