(※写真はイメージです/PIXTA)

ドクターにとって身近な「レセプトデータ」が、クリニックの経営改善を促す起爆剤になりうることをご存じでしょうか。レセプトデータを基に収益モデルを分析し、収益の大部分を占める「重点項目」がわかれば、売上増加や経営改善のために「なにを頑張ればいいか」という具体的な計画を立てることができます。レセプトデータを活用したより具体的な経営改善の方法を見ていきましょう。

まずは収益の大部分を占める「重要項目」を把握

レセプトデータを活用するには、「ABC分析」を行います。多くの指標の中から重視するポイントを決め、「A、B、C」と優先順位をつけて管理する手法で、「重点分析」とも呼ばれています。診療行為別集計表をABC分析した結果、内科クリニックでいうと、その多くは「検査」が収益の約6割を占めていると分かります。

 

ABC分析で重点分野を把握するだけでは意味がないので、改善計画の立案と行動につなげます。診療行為別集計表に基づいて上位に位置づけられた3つの項目をABC分析し、「頑張るポイント」をさらに具体化します。標準的な内科クリニックでは、以下のような項目が挙がってくるでしょう。

 

●医学管理料⇒特定疾患療養管理料、特定薬剤治療管理料、外来栄養食事指導料

●検査⇒血液検査、心電図、エコー、エックス線

●在宅医療⇒在宅時医学総合管理科、在宅酸素関係

 

業務フローを見直し、業務効率(生産効率)を高めようとするとき、注意すべきなのは「収益性にのみ着眼しない」ことです。常に患者目線に立ち、安全安心に基づいたサービスを提供するという前提に立ったうえで改善を進めてください。患者にとって納得性のある質の高い診療が、ドクターの目指すべきところだと位置づけましょう。では、具体的に業務フローをどう見直していくのか、一例を紹介します。

 

一見「取り上げるほどでもない項目」だが…

まずは、「医学管理料」の重点項目、特定疾患療養管理料、特定薬剤治療管理料、外来栄養食事指導料についでです。

 

●「特定疾患療養管理料」は、糖尿病、高血圧症、心不全等の生活習慣病の疾患が主病の場合に算定されるもので、運動、食事、服薬について「なにをどう指導したか」をカルテに記載することが求められます。指導内容は漏れのないように、また経過を追えるように、テンプレートを準備しておきましょう。補足すると、療養上の指導内容は、一般論ではなく、個々の疾病に即したものでなければなりません。

 

●「特定薬剤治療管理料」は、投与した薬剤の血中濃度を測定し、その薬剤の投与量を精密に管理した場合に算定します。「心疾患」でジギタリス製剤を投与する患者等が対象になります。

 

算定月を含めて3ヵ月間は470点、4ヵ月目以降は235点が算定可能です。ただし検査と投薬がセットでなければ算定できないため、確認手順を標準化しなければなりません。まずは「検査」「投薬」「主病名」の3つがそろっているか、診察時と会計時に確認しましょう。検査を忘れないために、検査日には電子カルテでオーダー内容がポップアップ(自動的に表示)されるように設定します。

 

●「外来栄養食事指導料」は、心疾患、高血圧症、糖尿病、脂質異常症等の患者が対象で、管理栄養士が指導した場合に算定します。初回260点、2回目以降は200点の算定が可能です。担当は管理栄養士ですが、ドクターが診察したときに予約を取り、カルテのスケジュール機能を使って予約を入れます。そして会計時に、受付にて予約状況を再度確認したうえで次回来院日を案内します。毎月末には翌月の予約状況を管理栄養士に確認し、必要な情報は事前に打ち合わせをするといった“一手間”が重要です。

 

これらは、内科において収益の柱となる項目です。「特定薬剤治療管理料」や「外来栄養食事指導料」は取り上げるほどでもないと思われるかもしれませんが、「特定疾患療養管理料」の算定件数を確保するために重要な意味を持っています。

 

管理栄養士の指導により、患者は日常生活の中で健康状態を意識し、病気と向き合うことができるようになります。このプロセスが医療スタッフとの一体感を生み出し、続けようというモチベーションを育みます。生活習慣病患者をリピーター(再診患者)として定着させるため、そしてクリニック経営の収益基盤を安定させるために必要なサービスであると認識する必要があります。

 

利益率を下げる原因…「時間のロス」は徹底排除

次に「検査」の重点項目、血液検査、心電図、エコー、エックス線についてです。

 

●血液検査は、あらかじめ電子カルテにセット組が用意されているので、業務フローの検証はあまり重要ではありません。上位項目の主病に対応する血液検査のうち、重要だと思われる項目のみピックアップし、病名をチェックします。ドクターのコメントが必要な検査項目もピックアップしておいた方がよいでしょう。

 

●心電図、エコー、エックス線については、まず現状の検査手順(診察→オーダー→検査→診察)におけるスタッフの作業時間に無駄がないかをチェックします。準備時間を含めた検査に必要な時間と、医師の診断に要する時間を第一優先に考え、カルテ入力や事務処理等の時間はアイドルタイムにまとめて処理するか、医事スタッフができるかを検討しましょう。つまりドクター、看護師、技師、医事スタッフがそれぞれ役割分担することにより経営効率の最大化を図るのです。

 

心電図や尿検査はルーチンワークにして、初診患者は診察前に済ませておきましょう。

 

エコーは完全予約制とし、診察時間に極力干渉しないようにするのが原則です。腹部エコーは午前の診療スタート直後に集約し、食事制限のない心エコーは午前と午後の診療の間に予約を入れましょう。

 

予約時刻を患者に伝える際の注意点が、「来院時刻(受付時刻)」を伝えることです。「予約時刻=検査開始時刻」が医療者側の常識ですが、患者側の認識としては「予約時刻=来院時刻」の方が一般的です。検査開始時刻になっても患者がいないという状況を回避するため、確実に伝えましょう。

 

検討された業務フローが、どれほど有効であるかを検証するために、モダリティごとに経過を追って管理していきます。レセプトと同じように、データ分析は平均値ではなく、日々のデータを個別に検証するようにします。平均化されたデータでは要因分析ができないからです。

 

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(参考)要因分析の項目の一例

①検査件数のキャパシティと実施件数、検査適応件数と実施件数の相関関係

②キャンセル件数と理由 、マイナス要因の削減対策

③検査と準備に要する所要時間、適正な人員配置

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次に投資効率を検証します。こちらは件数ではなく金額ベースで把握します。

 

検査収入−減価償却相当額(もしくは月額リース料)=クリニックの利益額。これを毎月の指標として、耐用年数を考慮した投資回収目標(※)と併用しながら実績を管理していきます。

 

検査件数が増え技師を採用した場合は、ここに人件費相当分(社会保険料含)を加味した金額で計算しますが、技師の人件費が増えることにより、モダリティの収益性は悪化します。こうなると、「ドクターの時間効率を最大化する」という当初の効率化戦略から、「技師の稼働率を上げ、検査件数を増やす」というボリューム重視の戦略への転換が求められます。

 

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※500万円のエコー購入 7年償却

1年あたりの償却額:500万円÷7年=71万4000円

年間最低目標件数:71万4000円÷@5000=142件

 ☆エコー単価は胸腹部の平均単価

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柳 尚信

株式会社レゾリューション 代表取締役

株式会社メディカルタクト 代表取締役

 

 

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※本連載は、柳尚信氏の著書『クリニック経営はレセプトが9割』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

クリニック経営はレセプトが9割

クリニック経営はレセプトが9割

柳 尚信

幻冬舎メディアコンサルティング

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