弁護士はあくまでも依頼者の味方、家族の味方ではない
弁護士は法律の専門家であり、争いの調停や交渉の場面で、依頼者の代理人になるのが仕事です。弁護士は、依頼者の代理人として交渉をすることになりますので、当然ながら、相手方は敵となります。両者の意見を持ち寄って、妥協点を見つけてまとめるということではないのです。
それでは、相続の場面はどうでしょう? 相続というのは、親子、きょうだいなど身近な親族が当事者です。そもそも、家族というのはいちばん親密で、信頼をもとに結びついている人々です。本来であれば、ここに争いごとを扱う弁護士が登場しなくても、親族同士で話合ってまとめていけばよいことです。
つまり、争いがない限り弁護士に依頼する必要はなく、むしろ弁護士の登場は、最終手段ということになるのです。
仮に弁護士が公正証書遺言の遺言執行者になっている場合、弁護士の業務は遺言執行で完了です。それ以上のことは引き受けてはもらえません。遺留分減殺請求を起こされた場合、請求された相続人は遺言執行者の弁護士への依頼を考えるかもしれませんが、遺言執行者の弁護士がその依頼を受けることは弁護士法で禁じられています。こうなると、万一揉めたとしても、仲裁には入ってもらえないのです。
弁護士に頼むべきケースとは、下記のようなものがあげられます。
●認知症などで本人の意思能力が低下した際、成年後見人として財産管理をする
●弁護士が成年後見人になっている場合、財産目録を作成する
●遺言執行者に指定されている場合の遺言執行
●相続人間で揉めごとになり、遺産分割協議ができないとき
弁護士に依頼すると、当事者同士での対話が不可能に
相続の場面で、話し合い等がうまくいかないといったケースはよくあります。遠慮のないきょうだいだからこそ、対立しても双方譲らず、感情的になってしまうこともあるでしょう。だれかが一方的な主張をしたり、高圧的になったり、激高したり…と、話し合いにならない場面はよくあります。
そういった状況になると、第三者が介入しないと解決できないのではと考え、弁護士に頼ることになります。しかし、一方が弁護士を頼んでしまうと、弁護士はその依頼者の味方になりますから、ほかの相続人には有利に働きません。そうなると、もう一方の相続人も、弁護士に依頼して代理人になってもらうことになります。つまり、双方とも弁護士が代理人というわけです。
揉めごとになると、しばしば冷静な話し合いができなくなるため、相続人同士が顔を合わせたり、話し合ったりすることがストレスになります。そのため、第三者が間に入ってくれただけでホッとしたという声があるのは事実です。
しかし、いったん弁護士に依頼すると「すべて弁護士を通して進めるので、相続人とは直接話をしないように」といわれてしまいます。そうなれば、きょうだい間での話し合いは不可能になり、ますます対立している事実が明確化してしまいます。このような事態がきっかけとなり、絶縁になってしまうケースは枚挙にいとまがありません。
やっぱり裁判に持ち込むのが仕事!?
たとえば傷害事件であれば、白黒つけることは容易ですが、相続は事件とは異なります。どちらが正しい・間違っているというのではなく、それぞれの意見や感情が対立することで、互いに譲れなくなっているのです。
ですから、後戻りできる段階で「身内で争ってもいいことはありません。冷静になって、互いに譲り合うように」とアドバイスする親族や第三者がいれば、その言葉で冷静さを取り戻し、深刻な争いにはならないのです。
弁護士は依頼者の味方になるのが仕事です。みんなの主張を聞いて、歩み寄りを促すのは弁護士の仕事ではありません。逆にいうと、対立相手の弁護士の話を聞いて譲歩する、といった流れにはなりにくく、「そっちがその気なら、こちらだって…」と、別の弁護士を立てることになってしまいます。また、そうでないと自分の主張を通すことができません。
そのため、以降の解決方法は「法廷の場で」ということになり、裁判所に調停を申し立てたり、相手を訴える裁判を起こしたりするわけです。
裁判をしても「気持ち」は救ってもらえない
依頼した相続人とすれば、もめた原因は、財産がほしいばかりではありません。「財産の内容を教えてもらえない」ことが発端となり、「なにか隠し事をされている」と感じるようになり、さらに、「話を聞いてもらえない」「自分の言うことを認めてもらえない」など、当たり前のことが要因になっています。
多くの方は、財産の分け方を決めるにあたって、自分の気持ちを聞いてもらい、認めてもらえば、相手の言い分も聞いて、譲り合ってもいいと思っているのです。話し合いに入る前は、ぴったり等分でなく、自分が少なくてもかまわないと思っているのです。
ところが、話し合いにもならなくなり、最初は、「財産ではなく、気持ちの問題」と思っていた人も、「気持ちが通じないのであれば、せめて、財産をもらおう」と変わってしまうのです。そこに弁護士が登場すると、解決の方法は、もう「財産」のことでしかできなくなるのです。
弁護士や家庭裁判所に救いを求めたとしても、調停も、裁判も、気持ちを汲み取ったり、救ったりするところではないということです。
むしろ、主張のぶつけあいとなり、対立はどんどんエスカレートしていきます。証拠の提出や主張する場面でも、片方が文書で主張していくとき、「それは違う」「そんなことはない」と思っても、その場やその後に、直に相続人同士で話し合いが持てないわけです。そのストレスは、それまでの比ではないほど、想像以上になるわけです。
もめ始めた頃に、いろいろ言い合っていたときのほうが、顔の表情や声のトーンなどから、まだ、感じ取れるものがあったのですが、裁判所の場面ではそれがありません。 これでは、さらにストレスをかかえることになります。多くの人は相手を恨んだり、責めたりする怒りのエネルギーから体調を崩します。鬱病を発症する人もあるのです。
要は、遺産分割の調停というのは、財産の分け方を決めるところですので、それ以上のことは期待できないのです。
「あなたの気持ちはよくわかった。これからもきょうだい助け合っていきたいので、財産の分け方はこうしたい」といういたわりやねぎらいの言葉を添えてもらえば、片方も、「いろいろ大変なことはわかったし、話し合えてよかった」と譲ることができるのです。
ほんとうに、「財産ではなく、気持ちの問題」なのです。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】