相続で揉める原因に「蓄積した感情面の問題」がある
相続におけるいちばんの懸念事項は相続税だと、多くの方が考えているのではないでしょうか。しかし実際には、それ以前の話である、資産の分配を巡ってもめる家庭が多いのです。
その理由は、家族間の「感情面の問題」の影響です。親から受けた援助の不平等感、老親の介護をめぐる不満、残された親の生活をめぐってのきょうだい間の意見の相違など、いろいろな思いや考えが複雑に絡むケースも珍しくなく、円満に解決できる家庭ばかりではありません。
さらに「分割しにくい資産構成」という問題も重なります。金融資産だけ、あるいは複数の相続人が納得する潤沢な資産があればいいのですが、もし遺産が自宅のみで、相続人にも金銭的余裕がなければ、公平な分配をするには売却するしかありません。しかし、それによって生活基盤を失う相続人が出るケースもあります。
法律で無理やり着地させると、絶縁となるケースも…
相続人同士が歩み寄れないとなると、たいていは法律の力で解決を試みることになりますが、親族が法廷で白黒つけるべく争えば、相続問題の決着がついたとしても、人間関係の修復は困難です。そのため、相続人にとって「法的には正しいが、不本意」な着地になるケースがしばしばあるのです。
家庭裁判所の調停や裁判は「遺産分割」は決めてくれるものの、家族間の心情などの解決はしてくれません。調停すればうまくいくと思うのは大間違いで、後戻りできずに絶縁となり、後悔する人も少なくありません。
以前筆者の元に、母親が亡くなる前に、兄が数千万円の預金を引き出したことをつきとめ、調停で争っているという方が相談に見えたことがあります。しかし、兄は「知らない」の一点張りで逃げ切り、相談者の方は敗訴。真実を知ることもかなわず、その後は兄から絶縁状まで送りつけられ、悔し涙にくれることとなりました。
相続でトラブルになる家庭に見られる「共通点」
なぜもめるのか、なぜ意思の疎通が取れないのか…。多くの方の相談に乗りながら、「もめる家庭の共通点」を常に探り続けてきました。もちろん、それぞれの家庭で理由は異なりますが、相続トラブルの根底には、長年言えなかった本音や不満が表面化し、感情的に責め合ってしまうことで、お互いへの配慮も思いやりも消し飛んでしまうことがあると思います。
相続を迎える前から、親の老後の生活や介護、万一認知症になったときのサポート等について、親族で話し合って事前に役割分担を決め、それぞれの事情も情報共有しておけば、相続になった際、主張が平行線になることも避けられるでしょう。
よく「親が元気なうちは相続の話はできない」という方がいますが、なにもいきなり財産の話をする必要はありません。長寿社会をいかに快適に不安なく生活してもらうか、親の希望を優先しつつ、子どもたちがコミュニケーションをとることが大切です。