なぜ牛乳販売者が「エネルギーシフト」?
東日本大震災は、福島相双地区に限らず、東北地方の同友会会員に前向きな新たな動きを促した。例えば岩手中小企業家同友会である。
2018年4月13日夕刻、岩手大学構内にある岩手県同友会事務局の会議室に、40代から70代の、背広姿もいれば、いかにも現場から駆けつけたばかりと見える作業着姿の人も含め、15人ほどの会員が集まってきた。業種も電子部品、内装、養豚などと多岐にわたる。桜前線はこの時点ではまだ盛岡にまでは到達しておらず、外は外套無しだと肌寒い。
この日、岩手同友会では会員有志が参加する「エネルギーシフト研究会」が開かれることになっており、彼らはそのメンバーなのである。ほかにアドバイザー的な立場で岩手大学大学院の中島清隆准教授なども参加している。
今回は菊田哲事務局長の企画で、2006年9月にNHKで放映されたエイモリー・ロビンス博士と彼が主催するロッキー・マウンテン研究所に取材した「未来への提言」という50分ほどの番組ビデオを視聴し、その後、出席者が意見交換をすることになっていた。
ロビンス博士はアメリカの物理学者で、早くから地球温暖化に危機感を抱き、今日、再生エネルギーと環境問題の世界的権威として知られている。
コロラド州にある彼のロッキー・マウンテン研究所の建物は1980年代に造られたものだが、標高2011メートルという高地にあって夜間の年間平均気温がマイナス15度にまで下がるにもかかわらず、建物内は平均15度ほどに維持されている。
石油やガスなど化石燃料をドンドン燃やして暖房しているわけではもちろんない。太陽光を室内に十分に取り入れ、特殊な四重窓で気密性を高め、しかも蓄熱性の高いコンクリート壁などを活用して、暖房費がほとんど不要の省エネ設計になっているのだと説明されていた。
ビデオ放映が終わると「ずいぶん古い番組だな」と苦笑しつつ、出席者はそれぞれの立場、エネルギーシフトへの取り組みを踏まえて次々と意見や感想を述べ始めた。
「この研究所はコスト・パフォーマンスがしっかり考えられている。こうした考え方を共有できれば、岩手でもエネルギーシフトに関していろんな取り組みができると思いますね」
「エネルギーを“地消地産”という点で見ると、未利用エネルギーがおよそ半分あり、しかも利用されているとされる半分のうち、実に半分が捨てられている。特に60度から120度の低熱エネルギーが使われていない。これを地域でどう活用するか。私どもは地域の企業と連携して低熱エネルギー利用の技術開発に取り組みたいと思っています」
「うちは小さな牛乳販売業者ですが、同業者12人と協力し合って、断熱パネルを用いた倉庫を造ることにした。結果、電気代が大きく削減される見通しです。このような地域エネルギーのストーリーを作っていくことで、われわれのような小企業でもエネルギーシフトを推進できるのではないかと考えています」
熱心に発言が続き、それに対する質疑等もあり、討議は予定の時間をはるかにオーバーし、後半に予定されていた様々な報告は駆け足ですまさざるをえないほどだった。