キャスティングの観点から見てみると…
次にキャスティングの成功もあった。これは単に誰それのダンスが上手いとか良い演技をしているといったレベルの話だけではない。オコンナーとレイノルズは親しみやすさと共に演技や存在としての軽みも含めた魅力―「アイドル力」が強く、その結果、観客をスクリーンの壁を越えて映画内世界に引き込む強い磁力が生みだされた。
またヘイゲンの美貌の「程度」も貴重であった。大スターとまでは言えない「B級スター」としての存在感を十分に担保するだけの美貌の程度が過不足ないのだ。さらに目の使い方、素早い表情の変化などの技術が卓越し、コメディーの演技も十二分に素晴らしかった。また、彼女を悪役にしたことで物語の流れに一つの芯が生まれた。
これまでジーンが出演したミュージカル映画の中で、リナほどはっきりとした悪役は「踊る海賊」の市長など、わずかな例しかないのではないか。
確かに憎めない悪役ではあるが、主人公らが彼女と対立する構造が物語に生みだされた。その結果、対立にまつわる緊張が生まれ、解決を目指すという目的が明白になった。これによってストーリーが凝縮し、物語が「締まった」。
映画のリアリティーを担保するシーンの数々
物語の本筋ではないところでも力を抜いていない。このことにより、観客の興味を途切れさせず、そのままストーリーに引き込むことができた。
たとえば冒頭、プレミア公開された映画「宮廷の反逆児」の場面。ジーン扮する主人公がアクロバティックな動きでダグラス・フェアバンクスばりの華々しい活躍を見せる。観客は映画の中の観客と同じ気持ちになり、活劇シーンについ見入ってしまう。
ドンがスタントマンをしていた頃を描く映像では、小屋の爆破シーンにしろ、高い崖からオートバイごと飛び降りるシーンにしろ、「ミュージカル映画のおまけのシーンでここまでやらなくても……」と思うほど危険なスタントを演出している。こういったことの積み重ねが、作り物である映画のリアリティーを担保している。
的確に描かれた「物語の時代背景」
物語の時代背景を的確に描くことによっても、映画の真実味を増すことに成功している。これには俳優やスタッフの実際の経験や知識が大きく貢献していると思われる。サイレントからトーキーへの移行期は、撮影時から二十二~三年前のことにすぎない。スタッフの中には当時から映画界で働いていたり、親が働いていたという人も多かった。
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