Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

アートの価値付けの主役は誰になるのか

アートを認知し、所有する人が広がることで世界中の人々がアートの価値付けに関わっているのです。世界に登場した新興の金持ちとはいえ、かつてのようにヨーロッパの特権階級だけはないのです。誰が「交換価値」を保証しているかといえば、世界の人々ということになります。

 

アートは資本や権力から自由になろうとする一方で、それらに絡め取られるというジレンマのもとで展開してきました。取り込まれては、逃れるという繰り返しです。アーティストのスタンスも、強欲と気高い理想の両面を持つ現実主義者と理想主義者です。まるでトリックスターのようです。

 

アートのブロックチェーン

 

この先のアートの価値付けの主役は、誰になるのでしょうか、富める者のままなのかそうでないのか。まだ誰にもわからないのですが、興味深い動きが出てきています。

 

ブロックチェーンです。仮想通貨の背景にある思想として、仮想通貨は、貨幣を国家の保証から解き放ち、それを所有する人たちによる相互監視により価値が保証されるという考え方です。ブロックチェーンがうまくいくかどうかはこれからの問題ですが、相互監視性や場の公開性などの民主的なプロセスが特徴で、今のアートのマーケットの偏りを是正する機会を提供する可能性を持っています。

 

実際に、ブロックチェーンの考え方をアート市場に応用してスタートバーンという企業が、「アート・ブロックチェーン・ネットワーク」事業を立ち上げ、推進しています。同社代表の施井泰平は、現代アーティストの顔を持つ起業家です。

 

東大大学院修了のインテリで、事業の目的に「アートの民主化」を謳うなど、まさに「交換価値」の決定プロセスの公開性や参加権を高めてブラックボックス化した値付けの仕組みを変えたり、いくら作品が値上がりしても制作者であるアーティストに一銭も入ってこないセカンダリー・マーケットの仕組みを是正したりして、アートの所有の在り方に改革をもたらしています。

 

本質的な価値とは何か

 

商業的な成功を収めたアーティストは、意図的にせよそうでないにせよ、誰もがグローバル資本主義と癒着した、アートの世界に生きています。そうしたシステムから逃れられないのが、現代アートの宿痾ともいえるでしょう。

 

実際にヴェネチア・ビエンナーレに足を運べば、シャンパンの乾杯で始まる、豪華なレセプション・パーティがあちらこちらで開催されていて、大統領から大臣といった政府要人から、投資家、大手企業のトップなど、社交界に欠かせない面々が顔を揃えています。

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アート思考

アート思考

秋元 雄史

プレジデント社

世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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