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接種率のペースを上げる「ファンセオリー」とは？
仮に職場内でのワクチン接種を開始したとしても仕事の忙しさなどを理由に接種をためらう社員が出てくることも予想される。そうした場合、ファンセオリーなども活用し、社員の行動変容を促す仕組み作りも重要である。米国の政府や自治体の先行的な取組み事例などが参考になろう。
ちなみに、ファンセオリーとは、フォルクスワーゲン社が提唱し、「Fun（楽しさ）」が人々の行動変容（人の行動が変わること）をもたらすといった考え方である。階段をピアノの鍵盤に見立てて、階段を上がると音が奏でられるようにした結果、普段より66％も多くの人がエスカレーターではなく階段を利用するようになったという。
こうした考え方を取り入れ、ワクチンを接種することが自らの安全（職場含む）とともに楽しさにつながる仕組みを整えることができれば、接種率の向上につながる可能性があろう。
たとえば、オハイオ州はワクチンを接種した住民を対象に100万ドルが当たる宝くじを実施すると発表。17歳以下の住民向けの宝くじも用意し、当選者には州立大学の奨学金を支給。また、ニューヨーク州は5月24～28日まで最大500万ドルから20ドルまで当たる宝くじを提供。
メリーランド州は、5月25日から7月3日まで、毎日4万ドルが当たるくじを始めた。7月4日にはさらに40万ドルの当選者を発表するという。ホーガン知事は「接種のためにもう一つ理由が必要なら、総額200万ドルが当たるチャンスがある」と呼びかけたことはメディアで大きく取り上げられた。
またその他の取組みとしてワクチンを接種した人に、野球観戦チケットや鉄道の1週間無料パスを配布するなどの事例も見られる。
このように企業として、社員のワクチン接種を楽しみに変える独自の取組みを実施し職場内の接種率を高めることができれば、
①社員と職場の安全を守る健康経営に積極的に取り組む姿勢や、②独自のアイデアを生み出す組織風土への評価が高まることに加え、③社内外の対面営業やミーティング等の積極化により収益アップにつながる可能性（特に対面的な人とのかかわりが収益につながりやすい企業など）を投資家が評価する動きも想定されよう。
日本企業や政府・自治体のさまざまな取組みにより国内でのワクチン接種率の向上や関連企業の株価上昇に期待したい。
「高度専門人材の評価体系変更」に取組む企業にも注目
その他の健康経営の視点を活用した銘柄選別の切り口として、中長期の企業競争力をもたらすとみられる高度専門人材の評価体系変更（処遇の変更を含む）に積極的に取り組む企業に注目したい。
たとえば、「富士通（6702）」は社内外にDXの流れを積極的に推し進めるため、旧来の年功序列やメンバーシップ型（人に対して仕事を割り当てる）の人事体系から、専門人材（特に高度専門人材）を活かすジョブ型（仕事に対して人を割り当てる）・実力主義型へのシフト（その後の定着含む）に前向きに取り組んでいる。
スムーズな制度移行・定着のためには従業員のモチベーションやメンタルヘルス対策に加え、組織体制・風土改革（既得権者・抵抗勢力による圧力やハラスメントの抑止）など健康経営も含めた総合的な人材戦略が必要不可欠であろう。
財務である業績動向とともに各社が取り組む人材戦略や健康経営の施策等も踏まえた中長期的な銘柄選別が重要となるとみている。
中村 貴司
東海東京調査センター
投資戦略部 シニアストラテジスト（オルタナティブ投資戦略担当）
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