(※写真はイメージです/PIXTA)

「日本の資本主義の父」と呼ばれた渋沢栄一は、家訓を作りました。今回は、その第一則「処世接物ノ綱領」(世の中における行動の本質)より3つ厳選し、人から信頼を得るコミュニケーションのポイントを見ていきます。※本連載は、渋沢栄一の5代目子孫、コモンズ投信株式会社会長を務める渋澤健氏の著書『渋沢栄一 愛と勇気と資本主義』(日経ビジネス人文庫)より一部を抜粋・再編集したものです。

貧しくても妬まず、自ら知識を得て努力することが大切

「富貴ニ驕ルヘカラス、貧賤ヲ患フヘカラス、唯々智識ヲ磨キ徳行ヲ修メテ、真誠ノ幸福ヲ期スヘシ」

(富んでいるからといっていい気にならず、貧乏だといって憂えることなく、ただただ、知識を磨き、道義にかなった行いにより、真実の幸福を期待すること)

 

渋沢栄一といえば、「日本の資本主義の父」と呼ばれているが、もしかすると究極の社会会主義の理想家であったかもしれない。己の蓄財よりも、日本社会をより良くするために人生を費やした。

 

ただ、栄一の思想は、一般的な社会主義者が主張する「結果平等」ではなかった。少なくとも、自助と努力によって富を得た人間を妬ましく思うような「嫉妬社会」は、栄一が目指した日本社会のカタチではなかった。嫉妬に縛られた社会は、幸福をもたらさないのだ。

 

栄一は、基本的に能力主義者であったと思う。ただ、能力のある人間が偉いという意味ではない。人間はそれぞれ、自分の才能があり、その才能に応じた役割がある。個々の才能を最大限発揮できるように仕事を分担すれば、理想的な社会ができるはずだ.

 

したがって、個々は才能を伸ばすために、自発的に知識を得て努力をすべきである、ということだ。

 

そのためには、教育や仕事に関して「機会平等」の社会でなければならない。すなわち「機会平等」で「能力主義」を発揮できる社会こそが、栄一の社会構想に近い。そういう社会でこそ、より多くの人々が幸せを掴むことができるのではないか。

本人がいないところで人を誉めることが大切

「口舌ハ福禍ノ因テ生スル所ノ門ナリ、故ニ片言隻語必ス之ヲ妄ニスルヘカラス」

(口は幸福または災難への門である。したがって、些細な事についてでも不用意な発言は慎むこと)

 

いつのことだったか忘れてしまったが、たまたま読んだ一文に、筆者は非常に感銘を受けた。以来、できるかぎり、その一文に書いてあったことを実行するように意識している。

 

すなわち、「本人がいないところでひとを誉めよ」。

 

自分が他人からどう見られているか、気にするのが人間だ。だからこそ、人を誉める、しかも当人に直接誉めるのではなく、第三者を介して誉める、ということが重要なのだ。

 

直接に誉められるのはもちろんうれしいことだ。一方、「お世辞」だと勘ぐるところもある。それだけに、他人を介して、自分が評価されていると聞くと、素直にうれしく感じる。とりわけ誉めてくれたのが、目上の人間や尊敬している人間だった場合は。その結果、信頼感を抱く。

 

まったく逆なのが、ひとを批判するときである。悪口というのは、とかく当人がいないところで言われる傾向が多い。ただ、陰口は必ず人を通して伝わる。そして、陰口ほど人の信頼感を損ねるものはない。文句が言いたかったら、批判したかったら、まず本人に言うべきである。

 

「口は幸福または災難への門」。まさに口はリスクマネジメントのツールであると、栄一は訴えている。

 

渋澤 健

コモンズ投信株式会社会長

 

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渋沢栄一 愛と勇気と資本主義

渋沢栄一 愛と勇気と資本主義

渋澤 健

日本経済新聞出版

もし、渋沢栄一が現代に生きていたら、日本の持続的成長を促すファンドをつくっていただろう――。 大手ヘッジファンドを経てコモンズ投信を創業した渋沢家5代目が、自身のビジネス経験と渋沢家家訓を重ね合わせ、目指すべ…

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