(※写真はイメージです/PIXTA)

相続時に「不動産」が原因で揉めるケースは多く、それがきっかけで家族の仲が悪くなることもあります。今回はその理由と解決策を、事例を使って見ていきます。※本連載は、海老原佐江子氏の著書『家族に迷惑をかけたくないあなたが認知症になる前に準備しておきたいこと』(WAVE出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

不動産は現金のように分割できず、相続で揉める原因に

相続財産にはいろいろなものがありますが、とくに気を付けていただきたいのは不動産です。遺産の多くの割合を自宅不動産(土地、建物)が占めているケースは、トラブルがとても多いのです。

 

例えば、こんなケースを思い浮かべてみてください。

 

Aさん(男性)が亡くなり、妻はすでに他界しているので、相続人は長男Bと長女Cだけです。Aさんは遺言を残していませんでした。

 

Aさんの遺産は、評価額2000万円の自宅建物とその敷地、1000万円の預貯金です。Aさんが所有していた家には、Aさんと長男Bの家族が暮らしていました。

 

さて、Aさんの四十九日法要も終わってようやく落ち着きはじめたころ、長男Bは相続のことを考える余裕が出てきました。そこで妹の長女Cに電話をして、「自分が自宅不動産を相続するので、Cは預貯金を全額相続したらいいだろう」と話しました。

 

ところが、長女Cから返ってきた言葉は耳を疑うようなものでした。「兄さんが不動産を相続するのはかまわない。でも私は、預貯金全額を相続するのに加えて、兄さんから500万円を払ってもらいたい」。

 

長男Bは突然のことに驚き、「何を言っているんだ。そんな大金、払えるわけないだろう!」と電話口に向かって怒鳴りました。すると長女Cは、「現金で払えないのなら、不動産を売って現金化して、私に分けてほしい」とまで言うのです。

 

長男Bは震える手で電話を切りました。「自宅を出て行けと言うのか。そんなことになったら、自分と家族はこれからどうすればいいのだ」。長男Bはその日は一睡もできませんでした__。

 

 

さて、長男Bとしては「長年、自分が暮らしてきた家だし、父親と同居して面倒を見てきたのだから、自分が財産を多めにもらって当然だ」と思っています。しかし、長女Cは「兄は父と暮らしてきて、いろいろ優遇されてきたのに、父は私には何もしてくれなかった」と思っています。そして「私も半分もらう権利がある」と一歩も譲りません。

 

Aさんの遺産の評価額は、自宅不動産と預貯金を合わせて3000万円です。法定相続分は長男B、長女Cともに2分の1なので、それぞれ1500万円分の遺産を取得する権利があります。しかし、調整弁となる預貯金は1000万円しかありません。

 

このような場合、相続人の一人が遺産の割合の多くを占める不動産を取得する代償として、ほかの相続人に「代償金」を払うという調整が行われることがあります。そのため、長女Cは、自宅不動産を兄が取得する代わりに、不足する500万円を自分に払ってほしい、と要求したのです。

 

このあと、兄妹の仲が最悪の状態に陥ってしまったのは言うまでもありません。天国のAさんも、愛する子どもたちがこのような状態になるのを望んではいなかったでしょう……。

 

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