新型コロナウイルスの抑制を目指し、世界各国の製薬会社がワクチン開発を急ぎ、ワクチン接種も進んでいます。一方で、薬を開発する力のない途上国の人々を守るため、製薬会社に特許の放棄を迫る声も上がっています。しかし、一見人道的に見えるこの行為が、今後の薬の開発における重大なリスクとなることにお気づきでしょうか。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

温かい心と冷たい頭脳が折り合う「2つの方法」とは?

冷たい頭脳の主張に「絶対反対!」と抵抗されてしまうと、無理に放棄させるわけにもいかないでしょうが、温かい心にも対策はあります。それは、先進国の政府が途上国を支援することです。

 

方法は2つあります。ひとつは、先進国の政府が資金を出し合って、製薬会社から特許を買い取ることです。そうすれば、開発した企業は特許が高く売れて儲かるので、次の感染症のときにも必死にワクチンの開発に取り組むことでしょう。

 

先進国政府連合は、特許を買い取ったうえで「すべての製薬会社が自由にワクチンを製造していいから、大量のワクチンを作ってください」「特許権使用料は不要だから、ワクチンの値段は高く設定しないように」といえばいいのですね。

 

もうひとつは、開発した企業がほかの製薬会社にワクチンの製造を依頼して大量のワクチンを作ってもらい、それを高値で販売して大いに儲けるということです。この場合も、製薬会社は大量のワクチンを高く売ることができるので大儲けができ、次の感染症のときにも必死でワクチン開発に取り組むでしょう。

 

製薬会社は高値で売るわけですが、それを途上国の政府が買い取って国民に安く販売すればいいでしょう。その差額分は先進国が途上国に援助をすればいいのです。

 

いずれの場合にも必要なのは「だれがコストを負担するのか」ということです。先進国の政府が負担するということは、先進国の国民の税金で途上国の人々を助けるということになります。

 

「自分たちの税金を外国のために使うのはイヤだから、製薬会社に特許を放棄させよう」というのは正義に反しているので、必要なコストは先進国の国民が喜んで負担しよう、というのが温かい心の提案というわけですね。

 

あとは、先進国間での資金負担割合の交渉となるでしょう。途上国支援に熱心な国とそうでない国、自分と仲のいい途上国に優先的にワクチンを贈りたいと考える国等々が出てきて大変かもしれませんが、そこは交渉がうまくいくことを祈りましょう。

 

ちなみにこの案は、冷たい頭脳も受け入れてくれるかもしれません。なぜって「途上国にワクチンが行き渡らず、途上国の感染が拡大し続けたら、先進国も困るだろう」といわれたら、先進国だって資金を出し渋るわけにいきませんから。

 

今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、わかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

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