超高齢社会を迎えた日本では、2000年に介護保険制度がスタートしました。民間事業者の参入が可能となったことで競争も激化し、サービス向上が期待されました。しかし、各社が「利用者に優しいサービス」を打ち出し、大切なリハビリの機会が減少。逆に高齢者が弱るという想定外の問題を引き起こしました。介護産業の厳しい現状について、自身も作業療法士であり、在宅ケアサービス会社を運営する筆者が解説します。

日本の寝たきり老人の比率は、スウェーデンの10倍

改めて、日本で高齢者が置かれている現状を整理しましょう。

 

図表は、日本の「寝たきり高齢者人口」を100としたときの、各国の数字との比較です。

 

出典:寝たきりゼロをめざして―寝たきり老人の現状分析並びに諸外国との比較に関する研究 第2版 Core Ethics Vol.6(2010)(塩中雅博氏改編)
[図表]寝たきり高齢者比較図 出典:寝たきりゼロをめざして―寝たきり老人の現状分析並びに諸外国との比較に関する研究 第2版 Core Ethics Vol.6(2010)(塩中雅博氏改編)

 

日本の寝たきり高齢者の数は、イギリスの3倍、アメリカの5倍、スウェーデンと比較すると10倍もの開きがあります。これが寝たきり老人大国日本の現状です。

 

諸外国と日本の「寝たきり老人の差」はどこから生まれてくるのでしょうか?

 

一つの理由には、日本の長期入院があげられます。

 

諸外国では日本ほど社会保障制度が充実しておらず、医療費は自己負担となります。例えば盲腸で治療を受けた場合、治療費総額が日本では約60万円ほどで高額医療費の控除などもあるため、本人が負担する費用はぐっと抑えられます。しかし、アメリカやフランスなどでは100万円を超えます。そのため、医療方針も病院などでの治療期間は極力短くし、在宅で療養することが基本方針とされています。日本は諸外国と違い、患者にとって必要以上に手厚い社会なのです。

 

また、延命治療や生死感の違いなどもあり、尊厳死が認められる国もあります。そういった国では、本人が寝たきりで意思表示もできないような状態でも、家族の希望で延命治療を施し、入院をさせておくことがないのです。

 

日本では1960年代から国民皆保険制度が施行され、私たちは誰でもどこにいても、同じ治療を受けることができ、重篤な病気になれば安心して入院することができます。その結果、高齢になって身体機能が衰え、治療によって回復できない慢性的な病気でも入院する人が多くなったのです。

 

確かに日本では家が狭く、身体が不自由な高齢者が在宅で過ごすための設備を充実できないことや、核家族化が進行して家族のなかに面倒をみる人がいないという現状もあり、
病院に頼らざるを得ないということもあります。

 

しかし高齢になったり身体に障害が起きたりして病院に入院した場合、慢性期病床でもリハビリは行われますが、それで安心できるほどのリハビリの量や質は期待できません。

 

病気やケガの治療のため、長期間にわたって安静状態を継続することにより、身体能力の大幅な低下や、精神状態に悪影響をもたらす廃用症候群が引き起こされます。

 

廃用症候群の進行は高齢者ほど速く、1週間寝たままの状態が続くと、10~15%程度の筋力低下が見られるといわれています。

 

よく耳にする「おばあちゃんが風邪をこじらせて肺炎になった。退院してきたら寝たきり老人になった」という状況は、そういう諸環境から生まれる悲劇です。早急に在宅インフラを整え、早期退院が可能な社会をつくることが、現在の日本の課題といえるでしょう。

 

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二神 雅一

幻冬舎メディアコンサルティング

「寝たきり」や「リハビリ依存」の高齢者。必要以上のサポートを行う過度な介護が、高齢者から身体機能回復のチャンスを奪い、自立を妨げているのです。 20余年にわたり介護業界で活躍してきた著者が掲げる「本物ケア」は、…

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