超高齢社会を迎えた日本では、2000年に介護保険制度がスタートしました。民間事業者の参入が可能となったことで競争も激化し、サービス向上が期待されました。しかし、各社が「利用者に優しいサービス」を打ち出し、大切なリハビリの機会が減少。逆に高齢者が弱るという想定外の問題を引き起こしました。介護産業の厳しい現状について、自身も作業療法士であり、在宅ケアサービス会社を運営する筆者が解説します。

かつては「非人道的な介護」も行われていたが…

2000年に介護保険制度がスタートする前まで、介護の世界には老人福祉制度という制度がありました。この制度のもとでは、介護が必要になった人は市町村に申請を行い、調査されたうえで利用の可否を判断され、事業者を指定されます。提供する事業者はただ要介護者を受け入れるだけ。よいサービスを提供して要介護者を集めるなどという努力を行う必要がありませんでした。

 

そのため多くの事業者は要介護者を寝たきりにさせ、極言すれば、ただ単に生存権を与えるだけというような、見よう見まねの専門性のない介護が横行していました。ひどい場合は、拘束されたり、閉じ込められたりするなどの非人道的な行為も当たり前のように行われていたのです。

 

そのせいで要介護者は筋力が低下し、自分で動くことができなくなります。また身体中に褥瘡ができたり、関節の変形拘縮が起き無惨な姿で固まってしまうようなケースが多く見られました。

 

寝かせきりにせず、毎日体を動かす。リハビリの基本的なことさえ実践すれば、簡単に避けられた事態です。

介護保険制度以後は「過剰なケアで弱る」高齢者が続出

そんななか、2000年の介護保険制度はスタートします。

 

多くの民間事業者が参入し始めると競争原理が働き、一転して今度は、必要以上に手を差し伸べる、客受けのいい介護が台頭してきたのです。

 

利用者が、「足が痛くて歩けない」と言えば、「はい、待っていてください」と言いながら車椅子を用意してベッドまで運ぶ。

 

「足が上がらず、お風呂に入れない」と言えば、「私の肩につかまってください」と言いながら、利用者を肩に担いでお風呂に入れる。

 

確かにそうすれば利用者は苦労せず移動できる、お風呂に入れる。その家族は「丁寧に扱ってくれた」「お風呂に入れてくれた」と言って安心して満足します。そうして介護するほうも、評判のよいケアスタッフとして、あるいは評判のよい事業所としての評価が得られ、どんどん仕事も増えていきます。

 

しかし、その裏では、利用者のもつ残存能力の発揮機会は少しずつ失われ、機能回復のチャンスを奪われて、本人、家族の気づかぬうちにいわば「つくられた」寝たきり状態となっていくのです。

ケアのやり過ぎは「介護の本質からずれている」

筆者は、こうした介護保険制度前の「専門性のない介護」、施行後の「過度に親切な介護」により、悲惨な状態に陥る高齢者を数多く見てきました。

 

身体が、腕が、脚が、腰が曲がったまま固まってしまった……。

 

腕が身体を圧迫するため、切断を余儀なくされた……。

 

本来なら自分で動けたのに、過度に親切な介護のせいでついに寝たきりとなり、身体中にジュクジュクとした褥瘡ができてしまった……。

 

ケアのし過ぎは一見理想の介護に見えて、実は介護の本質からずれている。利用者のやる気と根気、筋力や能力をそぎ、寝たきりへと一直線に進ませてしまうからです。

 

大切なのは、介護の現場にリハビリを取り入れることなのです。

 

利用者にできることは自分でしてもらい、リハビリに精を出してもらうことで自立した生活を取り戻してもらう。自立支援を基本に据えた介護を提供する。

 

そのためには身体機能の専門的な分析により、その人にとって必要かつ十分な介護量とリハビリ量を明らかにすることが大切であり、リハビリの専門職である療法士は、その能力に長けています。 療法士こそが、これからの介護現場で大きな力を発揮しなければいけません。

 

「なんでもして差し上げる必要はない。日本一不親切な親切で、もっと自分でできることを知っていただこう」

 

それが筆者の、療法士としてのひいては経営者としての不変のポリシーです。

 

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本物ケア

本物ケア

二神 雅一

幻冬舎メディアコンサルティング

「寝たきり」や「リハビリ依存」の高齢者。必要以上のサポートを行う過度な介護が、高齢者から身体機能回復のチャンスを奪い、自立を妨げているのです。 20余年にわたり介護業界で活躍してきた著者が掲げる「本物ケア」は、…

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