(※写真はイメージです/PIXTA)

「訪問看護ステーションは利用者を断ってはいけない。特別な理由がない限り利用者の要望は受けよ――」作業療法士たちは、リハビリを必要とする利用者をサポートしたいという熱意のもと、厚労省の指示を遵守し、「利用者ファースト」を貫いてきました。しかし、2006年の小泉制度改革で覆ることになります。そこには、日本の医療界に潜む、根深い問題がありました。

日本の医療制度がはらむ、数ある矛盾点

2006年のある日曜日、関係者経由で筆者のもとに届いた通達。

 

理学療法士等の訪問について

理学療法士・作業療法士または言語聴覚療法士による訪問看護は、その訪問が看護業務の一環としてのリハビリを中心としたものである場合に、保健師または看護師の代わりに訪問させるという位置づけのものであり、したがって、訪問看護計画において、理学療法士等の訪問が保健師または看護師による訪問の回数を上回るような設定がなされることは適切ではない(以下略)

 

このような制度改正が生まれてしまった前提となっているものは何か――。

 

それは一言でいえば、日本の医療制度に含まれた数々の問題点と矛盾点でした。

 

当時の小泉政権は、5兆5000億円分の社会保険料を5年間で抑えていこうとしていました。つまり年間1兆1000億円分を節約しようとしていたのです。そのためにはどこからか1兆1000億円を取れ、使い道を減らしてくれという命題が厚生労働省に降りかかりました。そこで、私たち療法士業界が、その節約分を背負わされる形になってしまったというわけです。

 

当時は、理学療法士協会も作業療法士協会も政治・選挙活動をしておらず、療法士業界を代表して当選した議員がいなかったので、厚生労働省から制度を変えるときにも相談がこなかったのです。

 

今は療法士も選挙活動をし、国政に国会議員を出していますから、厚生労働省からは事前に、「どうですか、意見を聞かせてください」というふうに相談をしてくれます。その関係が当時はまったくないままだったのです。

 

なぜ私たち療法士業界は医療行政内の重荷を背負わされてしまったのかというと、その根本的な理由は日本の医療行政の長い歴史と仕組みにあります。

 

まずこの国の医療行政のなかで厳然とした力をもっているのは、いうまでもなく日本医師会です。

 

そもそも医師免許は国家資格の頂点に君臨し、人々からも尊敬されています。大学でも医学部は予算や待遇面で別格の扱いを受けていて、年間何人の医師を養成するかは国家戦略として決められています。

 

医師の経済を支える診療報酬も、1961年に定められた国民皆保険制度のもとで安定的に医療側の基準で定められています。その豊富な財源をバックとして、日本医師会は国会や各県各市町村の議会に議員を送り込み、絶大な権力を保持しているのです。

 

もう一つの医療業界の権威は看護協会です。厚生労働省のなかには看護行政、医療安全、保健指導、介護保険、健康保険などの分野で看護技官が働いています。その人たちが看護政策を決めているからです。

 

この2つの団体には、厚生労働省に勤める技官がいるだけでなく、厚生労働省内のいくつもの審議会に席をもっていて、討議に参加することができるという強みもあります。そうやって自分たちの意向を政策に反映することができるのです。つまり、医療制度のなかで医師や看護師の権利を脅かすようなことは、容易には認められない。だから年間1兆1000億円の減額は、医師会や看護協会の負担にはならないところから取ってこなければいけないことになります。

 

それに対して療法士の団体は、そういう力をもっていません。政策立案に対して何もいえないし、審議会で議論することもできない。だから療法士が、社会保険料節約のしわ寄せを受けることになったのです。

 

療法士たちは、医療業界のなかで「訪問看護リハビリ」という新しい方法で利用者をごっそりもっていって儲けているらしい。―そんな感じで規制が決まってしまったに違いありません。

 

何もいわない(いえない)集団だと思われていたのです。

 

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本物ケア

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二神 雅一

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