がん、糖尿病、嚥下困難、胃ろう、認知症、独居うつ、褥瘡など、様々な病気の知識を持っている方は多くても、実際に患者の声を耳にする機会はほとんどありません。国民健康保険坂下病院名誉院長の髙山哲夫氏が現役医師の目線から高齢患者の声をお届けする本連載。今回は、病気との共存について、事例をもとに見ていきます。

91歳の認知者患者が胃がん罹患、切除は可能だが…

91歳のOさんが旅立たれました。認知症もあるOさんはそれまで同じ敷地内ではあるもののご家族とは離れ、独居生活を送っておりました。そんなOさんが進行胃がんに罹患されました。2年2か月前のことです。

 

切除できない状態ではなかったのですが、ご家族は積極的な治療を望まれず、そのままの生活を続けられました。幸いなことにOさんは痛みもなく、腹部症状もまったくありませんでした。さすがに独居生活の維持は難しくなり、毎回の受診にはいつも息子さんが付き添って来院されていました。

 

嘔吐が続き食事が摂れなくなり、Oさんが入院されたのはわずか2週間前のことでした。貧血も高度でしたが輸血は行わず、息子さんの介護負担軽減のための入院になりました。入院当初は食べられなかったOさんでしたが1週間目からまた食べられるようになり、会話も可能となりました、でも再度嘔吐が出現し、その2日目に旅立たれたのでした。

 

Oさんの胃がんがどうなっていたか検査を行っていないためわかりません。でも進行胃がんであっても、苦痛もなく、2年以上入院することなく、自宅で過ごされた末の旅立ちです。91歳の年齢を考えればこのような選択もあっていいと思います。

 

「がんでも入院しない」選択肢(画像はイメージです/PIXTA)
「がんでも入院しない」選択肢(画像はイメージです/PIXTA)

「がん発見」も、痛みがないので共存の道を選んだ患者

93歳のHさんの場合も同様です。Hさんが脳出血を発症した時から20年以上のお付き合いです。93歳であっても自力で歩け、認知症もなく、難聴はあるものの会話もしっかりされています。

 

そんなHさんに半年前に膵がんが見つかりました。でも痛みもないためご家族と相談の上、そのまま在宅生活を過ごして頂くことにしました。

 

がんの進行により、半年後に閉塞性黄疸が出現しました。しかし内科的な減黄処置で軽快し、また在宅生活が可能となりました。

 

Hさんがいつまでがんと共存できるかはわかりません。でもHさんの年齢を考えれば手術、あるいは化学療法など苦痛を伴う治療を行い、数年の延命を図るより、苦痛なく家で過ごされた方がいいように思います。

 

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このお二人の他にもがんと共存されている方が化石医師の外来には何人もいます。そんな方々と触れ合っていますとがんと闘うことだけが医療ではないと思います。ただそうした方々を支えるためには地域の充実した医療機関の存在が必要です。普段診ていても悪くなったら「よそへ行ってくれ」では地域の方々は安心して生活できません。

無駄を省き高度医療を拠点化することに異論はないが…

「困った時はいつでも来て下さい」と言われてこそ地域の皆さんも安心して生活できるのです。医療の集約化の中で地域の医療機関の統廃合が推進されています。無駄を省くため高度医療を拠点化することには異論はありません。

 

でも高度な医療を必要とする患者さんばかりではないのです。むしろそうではない患者さんの方が多い。でも集約化の結果、地域の医療はすたれ、医師がいなくなってしまいました。

 

地域の医療は単に医療機関の問題、行政の問題ではありません。「住み慣れた地域で安心して暮らせる」一番のキーポイントは医療です。医療が無ければ住民の方々はもっと住みよい地域を求めてその地を去り、地域は衰退してしまいます。

 

単に医療機関の運営が赤字だからの問題ではないのです。そのことをわかっている行政の方は少ない。目先のことではなく遠く将来を見据えた地域医療を考えて欲しいものです。その中心になるのは地域住民です。

 

 

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髙山 哲夫

国民健康保険坂下病院名誉院長

 

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『新・健康夜咄』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

新・健康夜咄

新・健康夜咄

髙山 哲夫

幻冬舎メディアコンサルティング

最新医療機器より大切なものは、患者さんを想う心――。著者のところには、がん、糖尿病、嚥下困難、胃ろう、認知症、独居うつ、褥瘡など、様々な病気をもつ高齢の患者さんがやってくる。地域の高齢な患者さんの声に真摯に耳を…

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