あのとき「終活準備」をしておけば…実録トラブル集
●ケース①「父親に延命治療の希望を聞いておけばよかった!」
Aさんの父親は施設に入所して5年。父親は腎臓が悪く施設の敷地内にある病院で週に3回人工透析を受けていました。とはいえ食欲もあり、なによりも施設で手厚い介護を受け、病院もすぐ近くにあるということでAさんを含む4人の息子たちは今日明日に父親の体調が悪化することは考えてもいませんでした。
しかし「そのとき」は突然やってきました。ある朝、介護士が見回りをしたとき、意識を消失している父親を発見。連絡を受けてかけつけた息子たちに医師は「このまま意識が戻らなかったら胃ろうを造って延命治療を行うか、あるいは自然死を選ぶか決めてほしい」と言いました。「そういえば、お父さんに最期はどうしたいかなんて、聞きづらくて聞いてなかったわ」と言う母親。
結局、父親の意識は戻らず、「死なせるようなことはできないから、胃ろうを造ってあげよう」という意見にまとまりましたが、それが父親の希望に添っていたかは、分からずじまいだそうです。
◆覚えておきたいトラブル防止策◆
高齢の親御さんの延命は本当に悩ましい問題です。無理に延命させればさせたで「苦しみを長引かせているだけではないか」という気持ちに悩まされ、逆に積極的な治療はしないと決めれば決めたで「あれで本当によかったのだろうか」という気持ちに悩まされます。そうならないために、親御さんご本人が元気で頭もしっかりしているうちに「自分の最期をどうしたいのか」を決めて、できれば書面で残しておいてもらいましょう。
日本人は死について話すことをタブーとする傾向があります。家族間でもなかなか触れづらい話題かもしれませんが、日頃から「なにかあったときにはこうしてほしい」と子どもから親にも話しておくことが大事です。若くても不慮の事故で亡くなることがあります。互いに残された家族が困らないように準備しておくことをお勧めします。
●ケース②「介護認定を受けるメリットを伝えておけばよかった!」
B子さんが一人暮らしをしている母親の異変を感じるようになったのは、今から3年前。母親が気に入っているデパートでランチをして買い物をする約束をすっぽかされたのが最初でした。
前の日に電話で話したときは「明日、楽しみにしているわ」と言っていたのに、待ち合わせ場所に来ないので電話をしたところ「あらー、今日だったかしら? お母さん、明日だと思い込んでいたわ」とこともなげに明るく言い放つ母親。
やがていつもきちんと片付いていた部屋が乱雑になり始めました。母親はもともと几帳面で良妻賢母を絵に描いたような人でした。お金や食料品、衣服、家の中と外、すべてにわたってきちんと管理ができる人だったのです。ところが衣替えのたびに「気に入っていたカーディガンが見つからない」「着やすかったコートがどこかへ行ってしまった」と電話をかけてくるようになりました。
そしてついにB子さんが恐れていたことが起こります。B子さんが母親の家から帰宅したあと「あなたが帰ってからお財布が見つからない。あなたが持って行ってしまったんじゃない?」と電話をしてきたそうです。
「お金を盗まれた」と言いだすのは認知症の人によくある話と聞いたことがあったので、もうこのままにはできないと、介護認定を受けさせようとしましたが、母親は「私はどこも変じゃない。なにをさせようというわけ?」と頑強に拒否しました。
だますようなことはしたくないので、母親にも納得して介護認定を受けてほしいとB子さんは願っていましたが、結局、アンケート調査だと嘘をついて介護認定を受けさせなければなりませんでした。
「要介護度1」という現実を突きつけられ、傷ついた母親を見て、B子さんは、「私が介護認定を受けるメリットを母に伝えてあげられたら、母も自主的に介護認定を受けたかもしれないのに」と後悔したそうです。
◆覚えておきたいトラブル防止策◆
頭がよくてプライドの高い人ほど自分の老いを受け入れられず、介護認定を拒否することがしばしばあります。またしばらく会っていない身内や他人の前では気が張るためか、しっかりした姿を見せてしまう傾向もあります。
そもそも介護認定を受けるとどんなメリットがあるのかも知らず、「介護認定=『ボケ』を認めること」だと思い込んで怖がる方も多いので、認定されると具体的にどんなサービスが受けられるのか、下世話にいえば「どんなおトクなことがあるのか」を分かりやすく本人に話し、親御さんの気持ちも変えることをお勧めしています。
竹内 義彦
一般社団法人終活協議会 代表理事
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