大切な家族につらい思いをさせない「事前準備」を
終活準備が足りていないと、どのようなトラブルが起こり得るのか、『「父に延命治療の希望を聞いておけば…」娘が抱く終活への後悔』に引き続き、具体例と予防策を見ていきましょう。大切な家族につらい思いをさせないためにも、必要な準備があるはずです。
●ケース1 「父親が加入している保険を確認しなかったばかりに…」
C子さんの父親は、突然体調不良を訴え入院、白血病と診断されて長期入院を余儀なくされました。
母親は「できるだけお父さんのそばにいてあげたいから」と個室を希望。個室は差額ベッド代がかかるけれど、父親が加入していた民間の生命保険に入院特約日額1万円を付帯していたのでそれである程度はまかなえるだろうと母親は話していました。
C子さんが手続きのため保険会社に連絡をすると、「この保険はすでに解約されています」と言われてしまいました。慌てて父親に確認したところ、定年退職を迎えたときにもう必要ないと思って解約したとのことでした。雑誌の特集で「余計な保険には入らないほうがいい」という記事を読み、これから給料も下がることだし自分も保険の整理をしようと思ったそうです。
長いあいだ保険料を払ってきていまこそ役に立つときなのに、勝手に保険を解約して、とC子さんは父親に怒りすら覚えたそうです。
ひと頃「保険に入り過ぎ」としきりに報道されている時代がありました。C子さんの父親はちょうどその頃に定年退職を迎え、収入が低くなることを見越してそれまで加入していた生命保険を整理。その際に本来は残したほうがいいものまで解約してしまっていました。
確かに生命保険に入り過ぎるのは考えものですが、現在、50代後半以上の年齢の人が若い頃加入した保険には解約するのが惜しいものもたくさんあります。また年をとればとるほど病気で入院する可能性も高くなるので、入院給付金が出る入院特約の付いた保険は大事にもっておいたほうがいいケースが多いのです。こうしたことを知っているかいないかで、老後の生活の安心度が大きく変わってきます。
資産に不動産が多い人は、遺産分割について考えておく
●ケース2 相続財産の内容を確認しておけばよかった!
D子さんの実家は地域でも有名な地主一家で、兄と姉、妹の4人きょうだいですが、それぞれ結婚して家を新築するときには親から援助してもらいました。
そんなD子さんの父親が亡くなり、相続財産をきょうだい4人で分けることになりました。母親は3年前に亡くなっていました。おりしもD子さんの長男が留学するタイミングだったので、父親には申し訳ないですが内心「助かった」と思ったそうです。資産家と呼ばれてきた家なので相続財産のうち4分の1としても相当な額になるだろうと思ったのです。
ところがいざ遺産分割という段になり、顧問税理士立ち会いのもと遺産の棚卸をしてみてあっと驚く事態が発生しました。相続財産は不動産がほとんどで、現金はほんの少ししかなかったのです。常に満室のアパートやワンルームマンションもありますが、なかには広いだけで使い道のない土地もありました。
亡くなった父親は先祖代々の土地もちであることを誇りにしていましたが、立地や地形が悪かったり、半端な大きさだったりして、そもそも不動産会社が引き受けてくれない土地がいくつもあることも初めて分かりました。
きょうだいの考えることは皆同じ。誰もがより多くの現金と、収益を生む不動産を求めて、「お兄さんは医学部に行くときにお金をたくさん出してもらったじゃない。そのぶん、相続財産から引くべきじゃないの?」「私がいちばんお父さんの面倒をみた。そのぶん、多くもらいたい」と言いだすなど、きょうだい間で争いが勃発。
さらにはそれぞれの配偶者が出てきて事態はさらに紛糾することに。遺産相続をきっかけにきょうだい同士が疎遠になってしまったとD子さんは嘆いていました。
D子さんの家のように地元の名家だといわれていた家にさほど現金がなく、相続財産のほとんどが不動産というケースは意外に多くあります。相続財産はお金で遺してもらうのが一番です。お金をもらって喜ばない人はいませんし、きょうだい間ですっきりと均等に分けることができます。それとは逆に不動産ばかりというのが最も望ましくないパターンで、財産争いの多くは「誰がどの不動産をもらうか(もらえないか)」で起こります。
相続税が発生する場合、死亡後10カ月以内に納税しなければならないため、場合によっては不動産を売却して現金化する必要が出てくることもあります。
そのため相続財産の多くが不動産という場合、生前対策は必須となります。不動産の多い家では親御さんの存命中から、所有している不動産の洗い出しをし、どれを売ってどれを残すかを決め、売れるものは売る算段をしておくことをお勧めします。
竹内 義彦
一般社団法人終活協議会 代表理事
終活スペシャリスト
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