実は、私たちの給与は等級や職位によっておおよそ決まっています。人事のプロである筆者はそれを「年収基準」と呼び、年収基準を知ることこそ昇給の近道であると明かします。成果主義が強まるなかでは、ただ長年勤めるだけでは昇進・昇給を望めず、リストラの対象にもなりかねません。生き残る人材になるには、どうすればよいのでしょうか。※本連載は、西尾太氏の著書『アフターコロナの年収基準』(アルファポリス)より一部を抜粋・再編集したものです。

夢を実現するカギは、新人時代の「何でもやる経験」

自分がやりたいことを実現する。これが年収アップの近道です。ただし、キャリアの初期段階では、「やりたくないこと」をやるのも重要なことです。

 

仕事の本質的なことを見極めるためには、まずはいろいろな壁にぶつかりながら、多くの物事を吸収する必要があります。石の上にも3年といいますが、最初の数年間で社会人としてどこでも通用する「基本的なビジネス行動」が身につけられるかどうか、それがその後のキャリア形成に大きく影響します。

 

親父の説教のようですが、新卒などの「補助・育成クラス」や、新卒の一歩先である「自己完遂クラス」の間は「四の五のいわず、とにかくやる」「ガムシャラに仕事に取り組む」という経験をしておくことは非常に大事です。それが将来、自分が本当にやりたいことを実現するための基礎的な力になるということを覚えておいてください。

成果主義時代、生き残るのは「どこでも通用する人材」

私の人事部長としての信条も「どこに行っても通用する人材を育てる」でした。どこに行っても通用する人材が自社にいる。これが会社にとって最も理想的な状態といっても過言ではないでしょう。

 

本稿を書きたいと思ったのも、多くの人に「どこに行っても通用する人材」になっていただきたいと考えたからです。今、サラリーマンの年収が下がり、黒字リストラが増え、成果が徹底的に重視される時代が来ようとしています。

 

長く続いた年功序列制度によって、日本のビジネスパーソンには実際の実力よりも高い年収をもらっている人が多くいます。

 

こうした人は今後、真っ先にリストラの対象になるでしょう。この時代に再就職することは困難ですし、たとえ再就職できたとしても、年収は下がり、それでもその会社で通用しないかもしれません。

 

しかし「年収基準」を知り、必要なコンピテンシー(=年収ごとに求められる評価基準)を獲得すれば、年収と実力のギャップを埋めることができます。たとえ退職勧奨されても、他社でも通用する力があれば十分食べていけます。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

生き残るための第一歩は「自分の市場価値」を知ること

「自分の適正年収=市場価値」を客観的に知ることは、今後ますます必要になってきます。今いる場所がわからなければ、どこにも行くことはできません。自分の「現在位置」を正しく認識し、今後のキャリアビジョン・キャリアプランを描き直すことが、この激動の時代を生き抜いていくための重要なメソッドになるのです。

 

キャリアの初期段階の若い人はもちろん、定年を待つだけで仕事へのモチベーションを失ってしまっているシルバー社員の方々にも、もう一度、自分を見つめ直し、これからまだ長く続く人生を充実した時間にしていただきたいと、私は考えています。

 

何かを始めるのに遅すぎることはありません。人生100年時代といわれている今、50歳の人でも、まだ人生の折り返し地点に来たばかりです。60歳の人でも、あと40年。70歳の人でも、あと30年も時間があります。

 

自分がやりたいことは何か。そのために必要なスキルは何か。「年収基準」は、そんな活用の仕方もしていただきたいと思っています。

持つべきは、どこに行っても通用する力=「辞める力」

「年収基準」を知り、必要なスキルを獲得すれば、「辞める力」を持つことができます。「こんな会社いつでも辞めてやる」と思えると、仕事がすごく楽になります。そして、評価もされるようになります。

 

どの会社でも、優秀な人であればあるほど退職する可能性が高く、そうでない人ほど会社を辞めません。この会社を辞めたら他に行くところがない、辞めたくない、だからしがみつくしかない。こういう状態では、本気で仕事することはできません。

 

いつも上司の顔色をうかがって、常にその言動に怯(おび)えながら仕事に取り組むことになってしまいます。こうした消極的な姿勢は、むしろ評価されず、年収も下がります。

 

どこに行っても通用する力=「辞める力」を持てば、上司にも堂々と意見がいえるようになり、自分が信じる仕事、やるべきと思う仕事を主張できるようになります。それで成果を出せば、評価は一気に跳ね上がり、年収もアップするものです。

 

もちろん「辞める力」を持ったからといって、それを振りかざしたりすると逆に評価は下がりますが、いざとなったら使える武器を持っていると強いものです。

 

西尾 太

人事コンサルタント

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