Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

アートの価格を形成する2種類のマーケット

プライマリー・マーケット

 

先ほどのオークションで、作品が8億円で落札されたからといっても、草間には1円も入りません。お金を手にするのはあくまでも出品者とオークション会社です。なぜならオークションは「プライマリー・マーケット」ではなく「セカンダリー・マーケット」での取引だからです。

 

アートの価格は、「プライマリー・マーケット」と「セカンダリー・マーケット」の二種類の仕組みで決まります。プライマリー・マーケットで取引されるのは、「作家から直接販売される作品」で、セカンダリー・マーケットで取引されるのは、一度販売されたものが再び市場で「再取引される作品」になります。

 

プライマリー・マーケットとは、文字どおり「第一次マーケット」で、アーティストが新しい作品をギャラリーで発表し、その場でお客様に売る、初もの作品を扱うマーケットです。プライマリー・マーケットの中に入るものは、コマーシャル・ギャラリーと呼ばれているもの、百貨店のギャラリーなどがあります。

 

ただし百貨店の値付けは、間に業者が入っていて、純粋なプライマリーとは言い難いところがあるので、ここでは作家が直接作品を提供するコマーシャル・ギャラリーのみを指すことにします。

 

その場合の価格は、作家の業績や将来性、人気などによって異なりますが、業界で通用する価格帯で決まります。ギャラリーで、その作品を購入するのは、かなり慣れた人でないと勇気がいるかもしれません。作家はいわば個人商店のようなものですし、基本的には自己責任のもとでの売買ですから、いわば上場前の未公開株を買うような感じに近いでしょう。

ただし、欧米の有名コレクターたちは、プライマリー・マーケットで購入してきました。欧米のコレクターたちは他人のマネをしたくない個性の強い人たちが多いということもありますが、アメリカでは税制の優遇制度があるという事情もあります。

 

ギャラリーは、かつてはタレントとその所属事務所のような関係を持っていて、アーティストをマネジメントするだけでなく、プロデュースを行ったり、プロモートをしたりしていました。ここのところ事情が変わりつつあり、資金的にも時間的にもそこまでアーティストと二人三脚で仕事をすることができるギャラリーは、少なくなってきています。

 

数年前、ニューヨークの力のあったプライマリー・ギャラリーが大量に閉店する事態が起きました。主要な儲けの場がオークションなどのセカンダリー・マーケットに変わってきたからです。実際に世界でもっとも力を持つといわれているガゴシアン・ギャラリー、ペース・ギャラリーは、セカンダリー・ギャラリーの大御所です。

 

サザビーズ、クリスティーズは国際的なオークション会社で、セカンダリー・マーケットを動かしています。すでにセカンダリー・マーケットで取引される大御所アーティストはいいですが、これからメジャーを目指す若者や中堅には実績を積むためのプライマリー・ギャラリーの閉店という事態は厳しい状況です。今後、アーティストだけでなく、アート業界にも影響を与えていくと言われています。

 

秋元 雄史
東京藝術大学大学美術館長・教授

 

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世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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