インターネットは間接民主主義の弱点を克服
「みんなのことを、みんなで助け合う」精神で社会を変革する
政治には対立がつきものですが、政治的な対立を乗り越えるのは、それほど難しくはないと私は感じています。「持続可能な開発目標(SGDs)」のような、比較的シンプルであり、台湾という場所を発展させるために有効だと誰もが同意できるような価値を見つけ出すことができればいいのです。
たとえば、現在の台湾の四大政党(民進党、国民党、時代力量、台湾民衆党)は、どの政党であれ、「民主主義をさらに発展させよう」「政府は国民をもっと信頼しよう」という主張に同意するでしょう。他にも、「全世界に台湾の民主主義を理解してもらおう」というような価値であれば、どの政党も反対することはないでしょう。
今、私が行っている仕事とは、まさにこうした「共通の価値」を見つけ出すことです。だから、複雑な、一種の権力闘争に巻き込まれるような心配もありません。
要するに、「みんなのことを、みんなで助け合う」ことが大事なのです。マスクマップにしても、特定の個人が作ったものではなく、シビックハッカーたちが協力して作り上げたものです。これはソーシャル・イノベーションの成果です。政府が何をしようとしているかは関係なく、一人ひとりが良い方法を考え、思いついたら実践してみる。マスクマップは、みんなが「良いアイデアだ」と思ったから、みんなで作ったものなのです。
過去によく聞かれた「シビック・エンゲージメント(市民の政治参加)」は、政府がテーマを設定して、市民に意見を求めるという仕組みでした。しかし、ソーシャル・イノベーションは、市民がテーマを決め、政府が市民のアイデアに協力することで完成するものです。政府は決して主体者ではなく、方向性をコントロールする存在でもありません。現在の台湾の民主主義はそういった形に発展してきています。
現在の代議制民主主義は、私にとっては原始的なシステムのように見えます。たとえば、ラジオやテレビが普及すると、一人の政治家が数百万人の国民に話しかけることができるようになりましたが、それはあくまでも一方通行に過ぎず、その政治家が数百万の国民の声を聴くことはできません。また、国民同士が互いの意見に耳を傾け、議論をすることも稀な出来事でした。
ところが、「インターネット」というプラットフォームを使うことで、一つの主張や問題について、誰もが言葉を交わすことができます。それぞれの主義主張や政治志向を離れ、一つのテーマや問題について誰もが自由に話し合うことができるのです。同じ価値観を持ち、目指す方向への共通認識があれば、共に話し合うことで社会を前進させることが可能となります。
そうした意味で、インターネットは間接民主主義の弱点を克服できる重要なツールとなり得るのです。そこに私は、デジタル民主主義の未来の可能性を見ています。
オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)
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