(※写真はイメージです/PIXTA)

18世紀のドイツの哲学者、カントはあらゆる権威の徹底的批判を根本精神とする批判哲学を大成し、認識論において「コペルニクス的転回」をもたらした「近代哲学の祖」とされます。カントが果たした役割とは何か。※本連載は、堀内 勉氏の著書『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)より一部を抜粋・再編集したものです。

「近代哲学の完成者」ヘーゲルの実在論の転回

カントは、デカルト的な主観と客観の二項対立の図式を前提としつつ、現象(主観)と物自体(客観)を区別し、人間の知性には限界があり、人間の認識は永遠に実像である物自体には至らないと考えました。これに対して、カントの二元論的な枠組みとその限界を弁証(べんしょう)法により乗り越えようとしたのが、18 世紀後半から19世紀初頭のドイツが統一へと向かい始める転換期を生き、ドイツ観念論(Germanidealism)を完成させた、「近代哲学の完成者」ヘーゲルです。

 

弁証法というのは、同じ問題について二つの相対立する立場がぶつかり合っている状態から、その矛盾を新たな次元で統一する「止揚(しよう)」(Aufheben)を通じて、高次の段階へ至るというもので、「定立(ていりつ)」「反定立」「総合」という三段階で説明されます。ヘーゲル哲学の入門書と言われる『精神現象学』において、人間の精神活動も弁証法を積み重ねていくことで止揚を繰り返しながら進歩し、最後には主観的精神(心、魂、意識)と客観的精神(法、道徳、人倫)が一致した精神の最高段階である「絶対精神」を獲得するとしています。

 

カントは、人間の認識は永遠に実像である物自体には至らず現象のままで終わると考えましたが、ヘーゲルは人間の精神が弁証法によって絶対精神を勝ち取ることで、世界の対象を知ることが可能になるという、自我を中心とする一元論を考えたのです。

 

このヘーゲルを頂点とするドイツ観念論への反動として、19世紀から20世紀にかけて、ヨーロッパでさまざまな実在論(realism)が生まれました。実在論とは、言葉に対応する概念がそれ自体として実在していて、その認識は可能だとする立場で、代表的なものとしては、マルクス主義の史的唯物論(historical materialism)があります。

 

実在論は、実在を物的なものとする唯物論(materialism)、霊的なものとする唯心論(spiritualism)、物的なものと霊的なものとする二元論(dualism)に分けられます。たとえば、中世スコラ哲学における普遍論争では、個に先立って普遍というものが実在するのか、あるいは人間が作った名前に過ぎないのかの論争が繰り広げられました。普遍概念が実在するという前者の立場の源流は、普遍的本質としてのイデアが存在するとしたプラトンにあり、これは観念実在論(Idearealism)と呼ばれます。

 

また、カントやヘーゲルをはじめとする当時の哲学は、理性を中心に議論を展開しており、基本的に人間の「生」そのものは構想の対象から外れていました。

 

これに対して、ショーペンハウアーやニーチェらは、いわゆる生の哲学(philosophyof life)を探求し、デカルトのような心身二元論的な知性や理性に限定された存在よりも、体験や直観を重視して、流動的で非合理な人間の生そのものを哲学の対象としました。

 

 

堀内 勉

多摩大学社会的投資研究所 教授・副所長

 

 

読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊

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堀内 勉

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