相続トラブル防止に、遺言書は非常に有効です。しかし、「遺留分」といった相続に関する基礎知識を持っていないと、本来の意図とは異なった財産の残し方をしてしまう可能性があります。最低限知っておきたいポイントについて、相続問題の解決に定評がある、弁護士法人菰田総合法律事務所の國丸知宏弁護士が事例をもとに解説します。

弁護士が教える、生命保険を利用した相続税対策とは…

また、今回の相談者であるAさんは、ほかにも気になる点があるようです。

 

Aさん:「実は、税金についても少し気になっているのです。私の遺産の内容からすると、相続税が掛かるのではないかと考えておりまして。なんとか節税できないかと思ってはいるのですが…」

 

筆者:「遺産の内訳を詳しくお伺いしても宜しいですか」

 

Aさん:「はい。自宅の土地建物、それから預貯金が約3500万円あります。それ以外は特にありません」

 

相続税が発生するかどうかを考えるにあたっては、まず基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の人数)の範囲内かどうかを検討する必要があります。今回の基礎控除の金額は、相談者の法定相続人が長男と次男の2名ですので、4200万円となります。そして、相談者のご自宅についての相続税評価額を算定したところ、約1000万円であることが判明しました。そうすると、現時点での遺産総額は約4500万円ということになります。したがって、このままの財産総額の状態で亡くなった場合、相続税が発生することになります。

 

※不動産の相続税評価額とは、相続税の計算をする際に、その基礎となる不動産の評価額のことで、建物は固定資産評価額、土地については路線価や倍率評価という算定方法を用いて計算をした金額となります。

 

筆者:「頂いた情報からざっと試算してみましたが、今回は税金がかかる可能性がありますね」

 

Aさん:「そうなのですね。どうしようもないのでしょうか」

 

この相続税の発生を防ぐ方法については、様々な手段が考えられます。今回は、生命保険を利用した方法に着目することにしました。

 

筆者:「先ほど、死亡保険金が受け取れる生命保険への加入を検討されているとのことでしたが……」

 

Aさん:「はい、実は既に生命保険には加入はしているのですが、医療保険にしか入っていなくて…。入らなければと思いつつ、よく分からなかったため、そのままにしていたのです。今回、相続のことを考えたときに、入っておいた方がいいのかな、と思いまして……」

 

今回の相談者は、生命保険には加入されていましたが、掛け捨ての医療保険だけで、死亡保険金が支払われるような保険には加入していないとのことでした。

 

生命保険の死亡保険金については、非課税枠が用意されており、その金額は、500万円×法定相続人の人数とされています。今回の事例では、法定相続人は長男と次男の2名ですので、生命保険の非課税枠は、500万円×2=1000万円まで、ということになります。

 

そのため、死亡保険金の金額が1000万円までであれば、この生命保険の非課税枠を利用できることになりますが、今回の相談者は現金が約3500万円ありますので、この3500万円の一部について、生命保険の掛金とすることで、基礎控除の4200万円だけでなく、生命保険の非課税枠1000万円も活用し、結局相続税が発生しない形を作れる可能性があります。

 

一口に死亡保険といっても、加入制限年齢の上限が違っていたり、一時払い(1回で保険料を支払うこと)が可能かどうかという違い、加入年数による保険金の金額の変動率の違いなど、様々な種類がありますので、生命保険の代理店など、専門家の意見を踏まえつつ、より条件に合った保険を選んで加入していくことになります。

 

結局、今回の相談者は、生命保険に加入したことで、上手く相続税が掛からないであろう形を採ることができました。

 

※弁護士又は弁護士法人の場合、所属弁護士会を経て国税局長に通知することで、その国税局の管轄区域内において税理士業務を行っています。対応していない弁護士事務所もあるので、相談の際は事前のお問い合わせをお勧めします。

 

 

 

國丸 知宏

弁護士法人菰田総合法律事務所

弁護士

 

 

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