長男が保険金と「遺留分」を両取りする最悪のケースも
ここで、「遺留分」という概念についてご説明しなければなりません。「遺留分」とは、簡単にいうと、相続人が、「最低限相続できる」と期待することのできる割合のことをいい、子どもが相続人の場合は、法定相続分の2分の1が遺留分となります。
今回の場合でいえば、「全財産を次男に」という遺言書が書かれた場合でも、全く遺産を貰えない長男にも「遺留分」があります。そしてその割合は、長男の法定相続分の2分の1となりますので、2分の1(法定相続分)×2分の1=4分の1となります。したがって、長男は、4分の1の割合の遺留分を有することとなるため、全財産を相続した次男に対し、全財産の4分の1について、金銭で支払うように請求することができます(この権利のことを、「遺留分侵害額請求権」といいます)。
ただし、今回の事例では、生命保険の死亡保険金の受取人を長男にしているのですから、その額によっては、「長男の遺留分を満たすくらいの金額は長男に入るのだから、問題ないのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、この「遺留分」を算定するにあたっては、生命保険の死亡保険金は一切考慮に入れないことになっています。これは、生命保険の死亡保険金というのは、「受取人の固有の権利」とされているためです。遺留分を算定する際には、遺産の総額に遺留分の割合を掛けていくことになるのですが、その「遺産の総額」を計算する際には死亡保険金は除外されます。
また、仮に生命保険の死亡保険金を受け取ったとしても、それでは遺留分を満たすことはできないこととなっているのです。すなわち今回の事案では、いくら長男を生命保険の死亡保険金の受取人に指定していたとしても、長男の遺留分は満たされないことになるため、長男は受け取った生命保険金を無視して、次男に別途遺留分を請求することができてしまうのです。
したがって、この「遺留分」のことを考えれば、長男を死亡保険金の受取人に指定した場合、最悪のケースに陥る可能性があります。長男は死亡保険金を受け取った上で、遺留分まで次男に請求ができてしまうのです。そうなれば、相談者の遺志に反して長男が多額の金銭を手にすることになります。こういった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
結論からいえば、死亡保険金の受取人を、次男にしてしまうという方法が考えられます。先ほど申し上げたように、遺留分を算定する際の「遺産の総額」には死亡保険金は含まれませんので、死亡保険金の受取人を次男にしておけば、仮に長男から次男に対して遺留分侵害額請求がなされたとしても、死亡保険金の金額を遺留分として予想されるくらいの金額に設定しておけば、次男は死亡保険金のなかから長男に遺留分を支払うことも可能となります。
しかも、上記の遺留分侵害額請求権は、長男が相談者がお亡くなりになり、遺言書で自分の遺留分が侵害されていることをしったときから1年間経過すれば、時効により消滅することとなっています。そのため時効期間が経過すれば、次男は生命保険まで含めて全財産を相続することができるのです。長男には生命保険を含めたすべての遺産について渡さない形を採れることとなるため、相談者の遺志に沿った形を実現できることになります。
今回の相談者も、最終的に検討の末、上記のような方法を採ることに決められました。
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