「予防歯科」で地域の競合医院と差別化
私が最初に開業した医院は、もともとは叔父が経営していた医院でした。
歯科医院としてやっていくため、ほかとの差別化が必要であることには早くから気づいていました。ただ、差別化ばかりに気を取られて目新しいことに飛びつくのは考えものだとは思っていました。まずは足元を固めることから始めたのです。
そのうえで、1医院として差別化を図るのであれば、少なくとも地域の競合医院よりも突き抜けるという道があると考えました。
その一つが「予防歯科」です。予防歯科だけで成り立っている専門歯科というものはまだありませんが、予防歯科に目を付ける人たちが少しずつ増えているのも事実です。
少子化のせいだけでなく虫歯で来院する子どもはとても少なくなりました。学校に歯科検診にも出かけますが、いまや虫歯のある子どもは1クラスに4人から5人くらいしかいません。フッ素やシーラント(奥歯や前歯の溝をプラスチック樹脂の一種で埋める処置)などの予防措置が徹底しているからです。
子どもの虫歯予防のためにお母さんたちがお子さんを歯科医院に連れてきてくれます。歯科医院の椅子に座っても治療をしなくて済むわけなので、子どもにとっても苦痛ではありませんし、予防でも治療と同じようにレセプトの点数は入るため、歯科医師にとってもうれしい話です。だからこそ、子どもたちに「歯医者は怖くない」、むしろ楽しいところだと思ってもらえるような仕組みが必要なのです。
子どもを「歯医者嫌い」にしない工夫
余談ですが、「歯医者は怖くない」と思ってもらうためには、子どもの場合、治療においても決して泣かせないことが大事です。昔の歯科医院は泣いても医師は気にせず、そのまま治療を続けるところが多かったです。
私は、もし子どもが泣いてしまったら、そこで治療も措置をストップすると決めています。また、泣いてしまって治療ができない子どもは、その前段階として、最初はキッズルームで歯ブラシを持ってもらって歯みがきの練習をするところから始めます。それから「今度は椅子に座ってみようか」というふうに少しずつ誘導してあげるのです。
さらに子どもが泣かずに治療を受けられたら褒めてあげて、ノートをあげ、そこにシールを貼る。1つ貼ると設置してあるガチャガチャができることにしています。シールが5つ貯まるとくじ引きをしてもらって、景品をあげるというようなこともしています。「歯医者は怖くない」、「むしろ楽しい場所だ」と思ってもらうためにいろいろな工夫が必要だと思っています。
お父さん、お母さんにも、よくできたときには家に帰ってから「ちゃんと褒めてあげてください」とお願いします。決して「頑張ろう」とか、ましてや「痛くてもがまんしなさい」といったマイナスのことは言わないでくださいとお願いしています。親への教育も大切なわけです。
一度泣いてしまうと、それが歯医者のイメージになってトラウマになってしまうかもしれません。実際、大人になって歯医者に嫌なイメージをもっている人の多くは子どもの頃の体験がベースになっているのです。だから親には「この子が一生歯医者を嫌いになるかどうかがかかっています」とまで言います。
子どもは、患者さんをいちばん呼び込んでくれる存在
話を戻します。予防措置として家庭での歯みがきでは限界があるので、歯科医院に来てもらってフッ素を塗る、あるいは矯正という手もあります。子どものうちから行えば成長期を使って矯正ができるので、歯を抜かなくてもいいというメリットがあります。治療はなるべく行わないというのが私のポリシーです。
子どもはそもそも虫歯になりやすく、また痛みを感じにくいので、子どもが痛がったときはもう遅いと思ってもらわないといけません。だから早めに来てくださいと言っています。
子どもを大切にすることは、その両親をもターゲットにすることなのです。子どもが通っている歯医者には母親、さらには父親も必要に応じて通うようになるものです。さらには祖父母が来てくれることもあります。子どもが患者さんをいちばん呼び込んでくれるというわけです。その意味で子どもは重要な「お客さん」であるわけです。
予防歯科に特化するというだけで、これだけの展開が期待できるわけですから、コンセプトを決め、その方向へと進むことがいかに大切なのか分かるでしょう。
ですから、予防歯科を充実させるという方向が一つの差別化の方策として考えられます。その場合は当然、ドクターと衛生士と受付といった最小スタッフで構成された陣容では無理です。それなりの数のスタッフを擁する必要があります。
河野 恭佑
医療法人社団佑健会 理事長
株式会社デンタス 代表取締役社長
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