本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『金融ニューズレター(2021/4/27号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

二 養殖の種類と必要条件・レギュレーション

1. 主な特色


上述のとおり、養殖事業は、海面養殖、内水面養殖及び陸上養殖に大別されますが、それぞれの特色や適用されるレギュレーション等について表にまとめると以下のとおりです。

 

 

 

※5 家畜伝染病予防法の適用対象は、同法及び施行令の特定する種類のほ乳類、鳥類及び蜜蜂に限定されており、魚類の伝染病については持続的養殖生産確保法が規制法となっています。

 

※6 飼料安全法では、ほ乳類、鳥類及び蜜蜂に加え、ぶり、まだい、ぎんざけ、かんぱち、ひらめ、とらふぐ、しまあじ、まあじ、ひらまさ、たいりくすずき、すずき、すぎ、くろまぐろ、くるまえび、こい、うなぎ、にじます、あゆ、やまめ、あまご及びいわなといった魚類・甲殻類も適用対象となります。

 

※7 現行法で、内水面漁業振興法に基づく許可制が適用される陸上養殖業は、同法施行規則によりうなぎ養殖業に限定されています。

 

※8 アニサキスは、卵がオキアミなどのプランクトンに摂取され、さらにプランクトンが魚類に補食されることにより、魚類の体内で幼虫となるため、閉鎖循環式施設において飼料をコントロールすることにより、そのリスクを軽減・排除することが可能です。一方、海水をそのまま注入して用いる場合には、海面養殖と同様の状況となります。

 

2. 重要な規制法その1―漁業法


(1)漁場計画(漁業法62条以降)

 

都道府県知事は管轄する海面及び内水面について、5年毎に海区漁場計画及び内水面漁場計画を策定することが要求され、海区・内水面における漁業権に関する事項(漁場の位置及び区域、漁業の種類、漁業時期、区画漁業権に関する個別漁業権又は団体漁業権の別等)が記載されるため、ファイナンス供与先候補となる海面・内水面養殖事業に関して、既存の漁業権の概要や新規参入の可能性に関する基本的情報を把握することが可能と解されます※9

 

なお、都道府県知事は漁場計画案の作成に際し、当該海区の漁業者、漁業を営もうとする者その他の利害関係人の意見を聞くものとされており、タイミングによっては漁場計画について、漁業(予定)者を通じて意見表明する余地も残されています。

 

※9 このほか、漁業登録令に基づく免許漁業原簿(漁業権登録簿、入漁権登録簿、漁場図、漁業信託登録簿)からの情報入手も可能です。


(2)区画漁業権(漁業法68条~96条)

 

養殖事業(区画漁業)を行うためには、区画漁業権を保有することを要し、区画漁業権の免許申請(期間終了時の再申請)、免許の不適格要件に該当しないことの確保、(既存漁業権者の場合には)漁場の適切かつ有効な活用※10、〈新規参入の場合には〉漁業生産の増大、漁業所得の向上、就業機会の確保など地域水産業の発展に最も寄与できること、漁業権の分割・変更、譲渡、賃貸、担保設定などの処分に関する制限・都道府県知事の免許・認可要件※11、漁業権の条件の遵守、資源管理の状況等の報告、都道府県知事による指導・勧告の遵守※12といった義務・要件が課せられており、これらはファイナンス供与時のコベナンツ規定やデフォルト規定の対象になると思われます。

 

※10 適切かつ有効に活用とは、漁場の環境に適合するように資源管理や養殖生産等を行い、将来にわたって持続的に漁業生産力を高めるように漁場を活用している状況をいいます(水産庁 海面利用制度等に関するガイドライン)。

 

※11 漁業法上、漁業権は物権と見なされ土地に関する規定を準用するものとされていますが(漁業法77条1項)、漁業権者による任意の譲渡・移転や賃貸などは法律上制限されています。

 

※12 ①漁場を適切に利用しないことにより、他の漁業者の生産活動への支障や海洋環境の悪化が生じている場合又は②合理的理由無く漁場の一部を利用していない場合、都道府県知事からの指導・勧告が行われ、改善しなかった場合には、漁業権の取消又は行使の停止処分が行われます。漁業権者が、漁業の免許の日から1年又は引き続き2年間休業した場合にも都道府県知事による漁業権の取消が行われ、別事業者による新規参入の契機となり得ます。

 

3. 重要な規制法その2―持続的養殖生産確保法

 

(1)持続的養殖生産確保基本方針(持続的養殖生産確保法3条)

 

持続的な養殖生産の確保を図るための基本方針として、①養殖漁場の改善の目標に関する事項、②養殖漁場の改善及び特定疾病の蔓延の防止を図るための措置及びこれに必要な施設の整備に関する事項、③養殖漁場の改善及び特定疾病の蔓延の防止を図るための体制整備に関する事項、及び④その他養殖漁場の改善及び特定疾病の蔓延防止に関する重要事項について規定されています。

 

基本的には、海面養殖及び内水面養殖に従事する漁業権者及び漁業協同組合(以下総称して「区画漁業権者」)を念頭に置いた記載となっていますが、特定疾病のまん延防止については陸上養殖業者の行動指針としてもワークするものと解されます。従って、養殖事業者に対してファイナンス供与する場合には、持続的養殖生産確保法と基本方針の遵守・体制整備についてコベナンツ規定を設けることが有用です。

 

(2)漁業改善計画・勧告等(持続的養殖生産確保法4条以下)

 

区画漁業権者(従って陸上養殖業者は除外される)は、養殖漁場における対象動植物、養殖漁場の改善目標とそのための措置、実施時期、施設、体制整備等に関する漁場改善計画を作成し、都道府県知事の認定を受けることができます。

 

漁業改善計画の認定は法的な義務ではありませんが、当該養殖業者及び養殖漁場が持続的養殖生産確保法及び基本方針を遵守していることの根拠となることから、海面養殖事業に対するファイナンスにおいては、認定を受けた漁場改善計画の具備や都道府県知事からの勧告等の遵守を前提条件やコベナンツとすることも考えられます。

 

(3)特定疾病に関する義務(持続的養殖生産確保法8条以下)

 

養殖方法の区別無く、養殖業者は、特定疾病(種類毎※13に適用対象となる伝染性疾病が施行規則により特定されています)の発生又はその疑いを発見した場合には、都道府県知事に対して届出義務を負います。都道府県知事は、届出養殖業者に対して、①検査を受けるべき旨、②特定疾病に罹患した養殖水産動植物又は罹患の疑い・おそれのある養殖水産動植物の移動制限や焼却等の処分、③病原体の付着し、又はそのおそれのある漁網、いけす等の設備の消毒等を命令することができます※14

 

このほか、都道府県知事には、特定疾病等の予防の観点から、養殖水産動植物の検査、注射、薬浴又は投薬を命令する権限、養殖施設等で立入検査等を行う権限、報告徴収権限が認められています。疾病関連の法令違反は、養殖対象となる魚類の毀損に繋がるだけではなく、養殖事業(地域)及び事業者のリピュテーションにも大きな影響を与えることから、予防措置を含めた十分かつ速やかな対応をコベナンツとして要求していくことになると思われます。

 

※13 さけ科魚類、こい、ふな属魚類、まだい、えび類、あわび、かき類、ほや等が規定されていおます。

 

※14 都道府県知事の命令に基づく移動制限や焼却・消毒等の処分により損失を受けた場合には、通常生ずべき損失の補償が認められています。

 

4. 重要な規制法その3―飼料安全法

 

(1)飼料の使用について

 

飼料安全法(飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律)に基づき農林水産大臣は飼料及び飼料添加物の製造・使用・保存方法・表示に関する基準、成分に関する規格を定めていますが、飼料安全法が規制対象とするのは、主として、基準に適合しない飼料又は飼料添加物の製造・販売行為であり、養殖業者による飼料又は飼料添加物の使用自体を直接の規定対象とするものではありません※15

 

但し、有害物質を含む飼料等の使用が禁止される場合や都道府県職員により報告の徴収や立入検査※16等が行われる場合には、飼料又は飼料添加物の使用者も対象となるため、養殖業者はこれらの処分に協力・対応する必要があります。

 

※15 海外で生産される飼料又は飼料添加物を養殖事業で用いるために輸入することも想定されますが、飼料安全法において規制対象となるのは、「販売の用に供するため」の輸入であり、養殖事業者が自ら使用するための輸入は禁止対象の類型には含まれていません。

 

※16 飼料の使用に関する必要な報告の徴収(飼料安全法55条3項)、養殖施設への立入り、飼料、原材料、飼料の使用状況の検査、関係者への質問、飼料・原料の無償収去(飼料安全法56条3項)

 

(2)飼料の製造・販売について

 

養殖事業においては、飼料の配合などを含め飼育方法の進歩が急速に進んでおり、事業者も自ら工夫して飼料を配合・改善することも想定されます。例えば、他の製造業者から購入した飼料又は海外から輸入した飼料に、地元で取れる材料・原料を混入させて飼料として使用するような場合、このような行為も製造に該当すると解されています。また飼料の改善・開発に成功し、同業者への販売を行うような場合には、さらに飼料安全法上の規制レベルが上がります※17


外部から購入した飼料をそのまま使用している場合、自分で飼料・飼料添加物の配合・加工を行う場合、配合・加工した飼料を第三者にも販売する場合では、飼料安全法上の規制内容が変わってくるため、ケースバイケースでの対応が必要となることに留意が必要となります。

 

※17 販売を目的とする飼料の製造を行う場合には、基準・規格に適合しない方法による飼料の製造等が禁止される他、製造業者には届出義務(飼料安全法第50条)が課せられます。販売を目的としない場合には、届出義務は課せられませんが、農林水産大臣により有害な物質を含む飼料等の製造が禁止されるなど飼料安全法上の規制は適用されることになります。

 

 

杉山 泰成

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士


 

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