不動産取引は一回一回に必要となる金額が非常に大きいため、個人で経験を積むのは難しいとされています。初心者が悪徳業者に食い物にされたという話は後を絶ちません。業界の問題点を知ることが、リスク回避に繋がります。※本記事は、メガバンク出身の金融・ファイナンスの専門家、藤波大三郎氏の著書、『たのしく学べるファイナンシャルプランニング[改訂版]』(創成社)より抜粋・再編集したものです。

日本と米国で違う、不動産売買の「手付金の意義」

不動産の売買では手付金を支払いますが、これは民法でいう解約手付とされており、手付金をもらった売主が契約を解除したい場合は、もらった金額の倍の金額を支払えばよいことになっています。なお、2020年4月の民法改正で、倍額の支払いについては、「現実の提供」(自分がなすべきことを全部行い、債権者が受領しさえすれば履行が完了する程度のことを実行すること)が必要であり、口頭による意思表示では足らないとされました。

 

ちなみに、結婚でも結納金をもらった女性が婚約を破棄したい場合は結納金の倍戻しをすればよいとされています。なお、手付を支払った方が解除する場合はそのままでよく、これを手付流しといいます。

 

一方、米国では手付金はあくまでも契約が成立したことの証拠として交付されるにすぎないため、買主が一方的に手付金を放棄して契約解除することはできないとされています。ただし、取引慣行上、買主の場合、支払った手付金相当額か売買金額の3%のうち、低い方を支払うことで解約できるような文言を契約書上、記載することが多いようです。そして、売主による解約は認められておらず、売らないことは違約扱い、つまり、売主の債務不履行となります。

 

宅建業者は代金の2割を超える手付を受領してはならないとされています。これは、手付の金額が大きすぎると契約解除、つまり、手付流しをためらうことになるからといわれています。クーリング・オフが認められない場合もこの手付流しによる契約解除はできます。

引き渡し前に不動産が焼失…負担は売主 or 買主?

売主の責任としては契約不適合責任があります。2020年4月に改正された民法では、売主が買主に引き渡すべき契約の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき、これを契約における債務不履行として買主は売主に修補・代替物の引き渡し・不足分の引き渡しを求めることができ、これを追完請求権といいます。

 

買主が相当の期間を定めて履行の追完を催告し、その期間に追完がない場合は代金減額を求めることができ、これを代金減額請求権といい、免責がありません。また、買主は損害賠償請求と、不適合の程度が軽微でなければ債務不履行解除の一般原則によって契約の解除ができます。

 

これらの権利を行使するためには買主は不適合の事実を知ったときから1年以内に売主に通知を行う必要があります。但し、数量不足や権利の不適合についてはこの期間制限はありません。この通知を行うと、権利を行使できることを知って5年、客観的に権利行使可能となってから10年という時効期間が適用されます。

 

なお、心理的瑕疵の問題もあり、事件が起きた物件について品質等の契約内容に適合しない状態として、契約不適合責任が問われます。心理的瑕疵とは、対象物件で人が事件により死亡した場合や、反社会的勢力の事務所がある場合などがあります。これらの心理的瑕疵は宅建業者の告知義務があるとされています。幽霊の噂なども、噂のあることについて告知義務があります。こうしたいわくつきの物件を事故物件と呼びます。

 

また、特に宅建業者が売主となる場合、契約不適合が存在することを通知する期間を目的物の引渡しから2年以上としなければならないこととなっています。さらに、新築住宅については、引き渡しから10年間の期間が2000年に施行された住宅品質確保促進法によって定められ、一般の買主の保護に役立っています。10年あればかなりの建築上の問題はわかるといわれています。なお、この法律も民法改正に合わせて、「『瑕疵』とは種類又は品質に関して契約の内容に適合しない状態を言う」という文言が加えられました。

 

そして、2005年に起きた耐震偽装についての事件を経て、2009年に住宅瑕疵担保履行法が施行されました。この法律は、売主または請負人が新築住宅を引き渡す際、保証金の供託、または、保険への加入を義務化しています。この供託と保険の利用の割合は、新築住宅の戸数ベースでは概ね半分ずつ利用されています(平成27年3月時点)。

 

保険への加入は、これにより欠陥住宅を作ったという不法行為の賠償責任をその企業1社に負わせるのではなく、業界全体で負担させ、買主の保護を図っています。この事件では販売会社が倒産し、マンションの購入者は大変な被害を被ったのであり、こうしたことを防ぐことが目的です。

 

そして、売主と買主の関係では危険負担の問題があります。民法では、売買契約を締結した瞬間に所有権は移動するとされますが、そうすると実際の引き渡し、つまり、登記と代金の支払いが行われるまでに落雷で建物が焼失した場合のようなリスクをどちらが負担するかという問題です。民法では従来買主が負担するとされていましたが、2020年4月の改正で、危険負担の責任を負うのは売主となりました。つまり、建物の売買契約締結後、引き渡し前に災害など売主および買主の責任ではない理由により建物が滅失し、引き渡しができなくなった場合、買主は履行拒絶権を行使して代金の支払いを拒むことができます。

 

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