資産形成の実現にあたっては、リスク管理、金融資産運用、タックスプランニング、不動産、相続関連など、多岐にわたる知識が武器となります。本記事は、そのなかでも不動産取引に焦点を当て、平易に解説します。※本記事は、メガバンク出身の金融・ファイナンスの専門家、藤波大三郎氏の著書『たのしく学べるファイナンシャルプランニング[改訂版]』(創成社)より抜粋・再編集したものです。

不動産登記のキホン①…制度の成り立ちと効力について

不動産については登記の制度があり、取引の安全を目指しています。かつては登記簿というものがありましたが、現在ではデータ化され、登記記録となりました。登記簿の時代は権利書と呼ばれる登記済証がありましたが、現在ではそれに該当するものはなく、登記識別情報と呼ばれる12桁の英数字による符号となっています。

 

不動産登記は、戦前は不動産の権利関係のみを公示するものであり、不動産の物理的現況を明らかにするものとしては、税務署に課税台帳としての土地台帳および家屋台帳が備えられていました。

 

しかし、戦後、台帳事務は登記事務と密接な関係があることから台帳が登記所に移管されました。その後しばらく、登記所において不動産の権利関係を公示する登記制度と不動産の現状を明らかにする台帳制度が併存することとなりました。しかし、登記簿は申請主義が基本であるのに対して台帳は登記官の職権によって登録することができたので両者のあいだに不一致が生じるなどの問題が生じました。

 

そこで、1960年に台帳を廃止して台帳の効力を有する事項を登記簿の表題部に移記する一元化を行うこととなり、この作業は1971年に完了しました。その結果、登記は「表示の登記」と「権利の登記」の両方を含むこととなったという経緯があります。つまり、現在の登記記録は由来の違う2つのものが1つになっているわけです。

 

不動産登記の効力は対抗力であり、公信力はないとされています。つまり、登記をすれば他の者が権利を主張しても物権変動を対抗することができるというものです。物権とは民法の用語で、人が土地・建物・抵当権等を直接的に支配する権利のことです。そして公信力とは、登記に絶対的な効力を認めることで、無権利者が登記されていても、その無権利者が法律上は保護されることになります。

 

しかし、日本の法律では公信力までは認めていません。不動産登記に公信力がないのは、登記を担当する役人が現地調査を行わず、書面だけで登記を処理しているために取引の実態を把握できないからとされています。

 

ドイツでは登記官に実質的審査権があり、公信力を認めています。登記は裁判所で行われ、登記官は判事が権限移譲した司法補助官です。フランスでは対抗力とされており、わが国はフランス法を取り入れています。なお、英国法の不動産登記も公信力があります。

 

対抗力しか認めないわが国では、不動産の売買は当事者同士では登記がなくても権利が主張できます。そして、第3者に対しては登記がないと権利を主張できないことになっています。

 

なお、例外として借地権は借地上の建物を登記すれば第3者に対抗できます。土地を借りる権利としては、民法で認められた物権としての地上権と債権としての土地の賃貸借契約による賃借権があります。実際の取引では賃借権がほとんどですが、これも登記されると対抗力があるのですが、登記されることはほとんどありません。土地の賃借権には登記請求権がなく、地権者に登記協力義務がないからです。

 

これでは借りる人の立場が弱いので借地法、借家法が大正時代に作られて借地権、借家権の権利が考えられ、平成になってこれらの法律が統合されて現在の借地借家法となりました。借地法ができる前は地震売買と呼ばれる地代値上げのための悪徳行為が横行しました。「売買は賃貸借を破る」という民法の原則に従い、賃借権は新地主に対抗できないため、地震のように建物が取り壊されるというところからこう呼ばれたといわれます。そうした現象を是正したのが借地法でした。

不動産登記のキホン②…「表題部」と「権利部」って?

前に述べたように、不動産記録は表題部と権利部に分かれています。表題部では地番という登記所が一筆(いっぴつ)の土地につける番号があります。この呼び方は豊臣秀吉の太閤検地のときに土地に番号をつけて、検地帳の一行(一筆)に書いたことに始まるといわれています。これは住居表示とは必ずしも一致しません。

 

また、地目が記載されますが、地目とは田、畑、宅地など土地の用途による分類のことで23種類あります。なお、宅地とは住居、商業活動、工業生産などに用いられる建物などの敷地として使用される土地と合理的に判断されるものをいいます。

 

土地と建物は別の不動産とされていますが、こうなった理由は日本の慣行として、土地と建物は別個の不動産として売買、交換、抵当権設定などが行われていたこと、家屋構造、特に立法当時、日本の建物は一般に木造であったこと、家屋構造の弱さなどがあるといわれています。なお、ドイツでは建物は土地の構成部分と考えられています。

 

権利部には甲区と乙区があり、甲区は所有権について記載され、差し押さえもここに記載されます。乙区には抵当権等が記載されています。こうした登記の内容は誰でも知ることができます。ですから住宅ローンを借りて抵当権を設定して住宅を取得していれば、その抵当権の内容は誰でもが見ることができるわけです。

 

登記簿の謄本・抄本に相当する登記事項証明書は、登記所(法務局)の窓口請求だけでなく、郵送やインターネットによる請求もできます。一方、登記記録の概要を記載した登記事項要約書は従来の閲覧に相当し、管轄する登記所での窓口請求しかできません。

 

登記において建物の面積は内法(うちのり)面積という壁の内側で測った面積で表示されています。新築マンションの場合、パンフレットなどでは建築基準法で用いる壁芯(へきしん)面積という壁の中心で測った面積で床面積表示されており、やや広くなっています。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

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