高齢化の進展する日本では、一戸建てからマンションや有料老人ホームへの住み替えを検討する高齢者が増えています。不動産の売却・現金化を狙うも、譲渡所得には高額な課税がなされるため注意が必要です。※本記事は、メガバンク出身の金融・ファイナンスの専門家、藤波大三郎氏の著書、『たのしく学べるファイナンシャルプランニング[改訂版]』(創成社)より抜粋・再編集したものです。

「住んでいた家」の売却なら、かかる税金は少なくすむ

高齢化の進むわが国で一般市民が住居を譲渡して住み替えるというと、高齢期の住み替えがあるでしょう。終の棲家としようと思っていた1戸建ても高齢期になると庭の草取り、階段の上がり降り、雨戸の開け閉めなど若いときにはなんでもなかったことが苦痛になり、1戸建てからマンションや有料老人ホームに住み替える人が少なくありません。そうしたときに不動産の譲渡と税金の問題が生じます。

 

譲渡所得の計算については、その金額を計算するときに取得費から減価償却費相当額を控除する点です。購入して年月が経過した家屋はその価値が低下しているので、低下した部分として減価償却費相当額を計算して差し引くことになります。なお、自宅建物などの場合、減価償却費相当額は、本来の耐用年数の1.5倍で計算します。これにより、減価償却費相当額の金額は小さくなり、結果として譲渡所得の額が小さくなります。つまり、非業務用の居住用住宅の売却については税金が安くなるように考えられているということです。

 

また、取得費が不明のときは概算取得費として売却価格の5%を取得費とすることもできます。しかし、これは得でない場合が多いので取得費の計算ができるようにしておくべきでしょう。実際の住宅と土地の売買では建物の価格はきわめて低く評価されているようですが、政府としては、これから中古住宅の流通を欧米並みに促進しようとしています。

 

譲渡所得は短期譲渡所得と長期譲渡所得があり、不動産は、取得日と譲渡日のあいだに暦年で5年あるかないかで短期か長期か分かれることになります。そして、短期は税率が39%と高く、長期は20%と低くなっています。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

家を譲渡したとき「課税の繰り延べ」が認められる条件

譲渡所得の税金は高いので居住用財産の譲渡については軽減措置があります。これは、個人が居住用財産を譲渡した場合、通常は別の居住用財産を取得することになります。つまり、譲渡収入の一部、または大部分がすぐに使われることになるため、居住用財産による譲渡所得は担税力が低いと考えられたからです。3,000万円の特別控除はその基本で適用のための条件は緩くなっており、所有期間は問われないことになっています。このため適用事例が最も多くなっています。

 

軽減税率の特例については、所有期間が10年超という条件が加わります。これらに共通する要件としては3年に1回しか適用できないことがあります。

 

しかし、居住用の住宅ですので、通常、次に住む住宅を購入することになります。そこで買換えの特例という制度があります。譲渡する住宅は所有期間が10年以上、自らが通算10年以上居住している必要があり、さらに売却価格が1億円以下という条件もあり裕福な人の住宅の買い換えは対象外としています。

 

そして、購入する住宅は土地面積が500m2以下として贅沢な住宅を除外し、建物の床面積が50m2以上と狭小住宅も除外しています。

 

こうした条件を満たすと、譲渡所得の課税の繰り延べが認められます。そして、取得費はそのまま引き継がれます。

 

たとえば、4,000万円の住宅を売って3,000万円の小さなマンションを買ったとしましょう。4,000万円の売却収入に対して取得費が2,500万円だったとして、1,500万円について譲渡所得をかけようとしても、マンションの購入に3,000万円使用しているので手許には1,000万円しか残っておらず、担税力が小さいといえます。そこで、その1,000万円から取得費相当部分である625万円(=2,500万円×(1,000万円÷4,000万円))を引いた375万円を譲渡所得として課税し、残りは購入したマンションを将来売却したときに課税する、つまり、課税を繰り延べるということです。

 

なお、この買換えの特例は3,000万円の特別控除や軽減税率の特例との併用はできないので、実際には買換え特例が得か、3,000万円の特別控除と軽減税率を用いた方が得かを計算することが必要となります。

 

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