登記所の「地図」にまつわる注意点、2つ
登記所には地図があるのですが、公図は明治初期の地租改正のときに作成された地籍図を基に作成されています。そのためで精度は高くなく、信頼性はありません。この公図は、もともと税金を取るための基礎資料として作成されたものですので税務署に保管されていましたが、第2次世界大戦後、固定資産税が地方税となったために前に述べた土地台帳とともに登記所に移されました。
一方、14条地図は不動産登記法14条に基づいて作成されており、地籍調査の成果などに基づいて作成されるもので、精度が高く信頼できる図面ですが、地積調査が行われている地域は多くなく、すべての物件について整備されているわけではありません。
不動産価格調査のキホン①…「公示価格」と「路線価」
不動産の価格の指標として代表的なものは公示価格であり、国土交通省が1月1日時点の価格を発表します。しかし、これは示される場所が少なく、それを補う形で都道府県が基準地価格を公示価格より半年遅れの7月1日時点で作成します。価格水準は公示価格を参考にして行われます。この公示価格はバブル崩壊後、下落していますが、近年になりようやく都市圏を中心に上昇に転じつつあります。
公示価格と基準地価格は全国をカバーし、長期の時系列のデータである点は有益な指標ですが、公表が年1回、公示地点の変更の場合連続性がなくなること、あくまで個別地点の価格であり指数でないことなどが使いにくい点とされています。
路線価は国税庁が1月1日時点で作成しますが、この価格は相続税の算定に用いられます。なお、路線価図には借地権の割合が表記されていますが、実際の取引では、この割合による価格では売れないこともあり、あくまで目安とされています。また、底地権を持つ地主が借地権を購入する場合は高くなることが多く、この価格を「限定価格(地主に限定して合理的な価格)」と呼びます。路線価の情報は、インターネット上の「国税庁ホームページ 路線価」から検索すれば簡単に調べることができます。
相続がいつ発生しても1月1日の時点の価格を用いるわけで、不動産の価格が下落傾向にあると納税者に不利益となることもあり、その価格は安全性を考えて公示価格の80%の水準に設定されています。同様に固定資産税評価額も課税のための価格ですので公示価格の70%と低く設定されています。正確には、基準年度の前年の地価公示価格の70%が評価水準とされ、1994年から行われています。また、調査は3年ごととなっていますが、これは課税事務が大量であることを考えて3年に1度の調査となっているものです。
なお、相続税での土地の評価は、前に述べた通り、路線価方式、または倍率方式で行うため公示価格の水準より安くなっており、相続税の納税者の立場では良いかもしれませんが、一方でこの相続税の評価を用いて遺産分割を行えば、相続人間で不公平な分割になる可能性がある点に注意が必要でしょう。
不動産価格調査のキホン②…不動産の評価方法
不動産の評価方法としては、原価法、取引事例比較法、収益還元法があり、最近では将来の収益から価格を算定する収益還元法が重要となっていますが、全体としては取引事例比較法が一般的と言われています。
収益還元法は、直接還元法とDCF(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー)法があり、対象不動産が将来生み出すと期待される純収益の現在価値の合計を求めることにより収益価格を求めるものです。DCF法はコーポレート・ファイナンスの分野で用いられ、現代の企業が事業展開を考える場合の基本的な方法です。
もっとも、米国では戸建て住宅については原価法や収益還元法はほとんど使われておらず、取引事例比較法が用いられています。なぜなら、住宅を購入する人は収益性を考慮していないからで商業用不動産に使われる収益還元法は不適切といわれています。
不動産価格調査のキホン③…今後の土地価格の行方は?
近年の不動産価格については、首都圏の新築マンションの価格が高騰しています。バブル崩壊の原因の1つに不動産の価格高騰を止めるために導入された不動産向け融資の総量規制がありますが、当時はいわゆる生活大国の目標として、年収の5倍の住宅供給が政府の目標となっていました。なお、バブルは一斉に崩壊したと思われていますが、株価は1990年の年初から下落がはじまりましたが、土地の価格は1991年まで上がり続けました。そのため、株はバブルであったが土地は違うということが当時いわれました。しかし、結局は土価もバブルでした。
新築マンションの価格が上昇すると中古マンションの価格もいわゆる裁定取引が働いて、価格が上昇しやすくなりますが、実際、中古マンションの価格は上昇しています。
こうしたことは一時的なことではないと思われます。人口が減少してゆくわが国でも経済成長は起こります。吉川洋立正大学教授(東京大学名誉教授)は、先進国の経済成長を決定するのは、労働力人口の規模や人口増加率ではなく、資本蓄積とイノベーションであると述べ、この観点から見た時、「日本経済にはまだ潜在力がある。人口減少下でも経済成長は可能」と述べています。
そして、「今後、イノベーションが継続的に起き、実質GDPが年率1.5%成長すると仮定します。人口減少下ですから、一人当たり実質GDPに換算すると、年2%以上成長することになり、約30年で2倍になります。その結果、今の20代の一人当たり生涯所得は私の世代の2倍になります」と述べ、イノベーションによる経済成長を主張しています。こうした経済成長を背景に、地域差はあるものの利用価値の高い地域の住宅用地、商業用地の価格は上昇すると思われます。
藤波 大三郎
中央大学商学部 兼任講師
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