家庭の事情で年取った母の面倒を見られず、すべてを兄任せにしていた妹は、母親の死後、残った財産の少なさに驚きました。兄を追及してもらちが明かず、話し合いは調停にまでもつれ込みますが、納得のいく着地点が見出せません。どんな対応が必要だったのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

引き出された母の預金額「3000万円」の行方は?

三原さんが明細を取ってみると、母親が高齢者施設に入所して以降、約3000万円が引き出されていたことが判明しました。50万円単位での引き出しがたびたび繰り返されていることから、窓口ではなく、キャッシュカードで引き出されていたと想像されます。

 

 

足腰の弱った母親がひとりで銀行へ出向くことは考えられず、そもそも施設での生活にはまとまったお金は必要ありません。激怒した三原さんは兄の自宅へと走り、預金の入出金明細を手に詰め寄りました。

 

「お母さんのお金、やっぱりお兄ちゃんが引き出していたんじゃない!」

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

しかし、三原さんの兄の対応はひどいものでした。三原さんを怒鳴りつけ、自宅から追い払ったのです。

 

「俺がそんなことするわけないだろう! おふくろの金をおふくろがどう使おうが知ったことか! 人に面倒ごとだけ押しつけておいて、いまさら一体なんだ!」

 

「じゃあ、足の悪いお母さんが月に何回もATMに行ったっていうの? なんのために? お兄ちゃんは財産の管理をしてたのに、気づかなかったの!?」

 

「うるさい、知るか! 出ていけ!」

兄は「知らない」の一点張りで…

三原さんと兄との話し合いはまったく進展しませんでした。致し方なく、三原さんは家庭裁判所に調停を申し立てました。 対応してもらう弁護士は三原さん自身で探し出しました。

 

その後、筆者は三原さんから調停が終わったとの連絡をもらいました。

 

「兄は最後まで〈引き出されたお金のことはなにも知らない、わからない〉の一点張りでした。結局、私の主張はなにも認めてもらえなくて、残った1000万円を等分に分けてあきらめるしかありませんでした」

内容証明郵便で届いた、兄からの「絶縁状」

調停のあと、兄から内容証明郵便で「絶縁状」が送られてきました。実印を押して返送するよう、高圧的な文面のメモ書きが添えられていたそうです。法的な力はありませんが、傷ついた三原さんに追い打ちをかけるには十分でした。

 

今回の母親の遺産の分割についても、三原さんにはなんら落ち度はなく、 そもそも高齢の母親が使った形跡もないのに、家庭裁判所では真実が明らかになることなく、 兄の主張が通る結果となりました。

 

「本当に理不尽で、悔しくてたまりません。母が施設に入るとき、兄はものすごく私を気遣う様子だったんです。〈家と仕事、両方背負って大変だろう? おふくろのことは大丈夫、心配するな〉って…。それが兄の手だったのでしょうね。弁護士の先生にはずいぶんお金を払いましたが、何度打ち合わせても一方通行な感じで、結局、最後まで熱心に取り組んではもらえませんでした」

 

家庭裁判所で調停をやっても、納得できる結果が得られるとは限りません。そもそも調停に持ち込む時点で、すでに円満な話し合いができる状況ではなく、関係修復は不可能でしょう。三原さんのように悔しい思いをしないためにも、前もって相続の基礎知識を得ておくこと、そして、状況を放置することなく、早い段階での確認・対処を心がけることが大切なのです。

 

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

 

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    本記事は、株式会社夢相続が運営80代するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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