本来は、がんばっても2~3割程度の値引きが限界だが…
外壁塗装は簡単には安くできない仕事です。
塗料を安く仕入れるルートをつくったり、大量に仕入れて安くしたり、安く仕事をしてくれる下請けや孫請け業者を見つけることによって原価を抑えることはできますが、筆者の経験を踏まえると、このような方法で原価を抑えたとしても、せいぜい2割から3割が限界です。
そのような状況のなかで、元請け業者が100万円で引き受けた仕事を「50万円でやってください」と言われたら、下請け業者はどうするでしょうか。
「50万円ではできません」
そう言えればよいのですが、実際は定期的に元請けから仕事をもらっていると、仕事を切られるのは怖いものです。元請けからの「次の現場で上乗せするから」というありもしない甘い言葉を鵜呑みにし、下請けは断れない状況になるのが現実です。
すると、赤字を覚悟で引き受けるか、または、塗料、人、作業時間を省くことによってどうにか50万円に抑えるしかありません。
筆者自身も下請け業者として仕事をしているときは、こんな状況は日常茶飯事で「仕事があるだけありがたい」と思っていました。
そして、それがこの業界では常態化しているのです。ですので、末端の塗装職人は、「どうやったらお客さんが喜んでくれるか」というやりがいではなく「どれだけ工期を早く、材料費を安く抑えられるか」がやりがいになっています。
例えば新人の職人たちにとって、そういった状況が修業時代から続いているとどうなるでしょうか。彼らは丁寧な仕事をすることを教えてもらえていないので、利益優先の急ぎ仕事になるのです。
このような状況から、現場では、「丁寧な仕事をしよう」より「早く終わらせよう」「早く次の現場に行こう」という意識が強まり、雑な仕事や手抜き工事が増えやすくなるのです。
一方で、丁寧な仕事を教わってきた職人は、「どうやったら分からないように手抜きができ、早く終わらせられるか」ということ自体に慣れていません。
3度塗りを2度塗りにするような手抜きは、まさにこういった環境から生まれます。塗装回数を減らすことが、塗料の節約、人件費削減、作業時間の短縮などにつながるからです。
ほかの方法としては、塗料を薄めれば原価を安くできます。限度はありますが、薄めれば薄めるほど塗りやすくなるため、作業時間が短縮でき、人件費も抑えられます。
手抜きの方法にはさまざまあり、すべては書ききれませんが、現場の人間にだけ分かるような細かい手抜きが山ほどあるのです。
このような方法を駆使することで、100万円かかるはずの仕事を50万円で帳尻が合うようにするのです。
薄利な仕事をする業者は「手の抜きどころ」を探しがち
この構造は長期間かけてつくられてきたもので、すぐに変えることはできません。すぐに変わることもないでしょう。
下請けとして薄利で仕事をせざるを得ない業者は、良い仕事をすることよりも手の抜きどころを探すことに意識が向きやすくなります。
お客さんが気づかないところで手を抜いたり、知識不足のお客さんから余分にお金を取ろうという業者も、簡単にはいなくならないでしょう。
ただ、そういう業者がいることや、その背景に多重構造と中間マージンの問題があることなどを知っていれば、警戒することができ、避けることができます。
トラブルになりやすい業者を避ければ、結果として、良い業者を見つけられる可能性が高まります。
業者や業界環境についてまったく知識がなければ、知らず知らずのうちに100万円の工事が50万円になってしまいます。大きなトラブルが起きれば、さらに100万円かけて工事をやり直すことにもなり兼ねません。
それを避けるために、お客さん側も外壁塗装や業者の選び方について多少の知識をもつことが大事です。
外壁工事でアパートの入居率を高める秘訣
アパートオーナーのなかには、建物の見た目を変えたり、デザインにこだわることによって入居率を高めたいと考えている人が多いことでしょう。外壁塗装は、そのための手段になります。塗料の機能により、オーナーにとって重要な資産であり収入源でもあるアパートの寿命を延ばすこともできます。
現状では仲介の不動産業者に手配を任せるケースが多いかもしれません。しかし、ポイントさえきちんと押さえておけば、自宅の外壁塗装を依頼するのとほとんど変わらない手順でアパート全体の外壁塗装ができます。
不動産業者に丸投げするのをやめれば、その際に発生していた中間マージンの分安くなり、実際の工事に使えるようになり、工事の質が高まります。また、外壁塗装の業者と仕上がりイメージを綿密に打ち合わせすることで、満足できる可能性も高まり、納得度も高まるでしょう。
「やってみようか」と思った場合は、以下のポイントを意識して業者選びをしてみてください。
●アパートの資産価値向上につながるようなデザインの提案ができる業者
● アパートの住民の生活にきちんと配慮できる業者(例えば、塗料の臭いがきつい
溶剤系ではなく水性塗料で施工できる、住人への挨拶回りに同行してくれる、な
ど)
●火災保険の活用など、大型物件の工事の知見がある
以上の点を踏まえつつ、住人の方々が自慢したくなるような、家族、友達、知り合いを呼びたくなるようなアパートに生まれ変わらせてください。
久保 信也
株式会社リペイント匠 代表取締役
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】