「企業主導型保育事業」が誕生した背景とは?
隠れ待機児童の問題を解決するために、筆者はぜひ企業に参入してほしいと考えています。もちろん新たな事業への参入には不安もあると思いますが、これまでの筆者の経験からすれば、まったく問題はありません。筆者自身もゼロから保育業界へ参入しましたが、現在は5つの保育園を運営し、民間企業の常識的なノウハウを活用することで、非常に上手くいっています。どの保育園もほぼ定員いっぱいの子どもを預かり経営も順調です。
では、企業が保育ビジネスに参入する際、どのような形態を取るのがよいのでしょうか。
企業の運営する保育園といえば、「企業主導型保育事業」という名前を聞いたことがあるかもしれません。
企業主導型保育事業は、2016年に子どもを保育所に預けられなかった母親の悲痛な叫び「保育園落ちた日本死ね」をきっかけに誕生しました。国会でも議論が起こり、緊急的に企業主導型保育事業をスタートし、多くの企業の参入が殺到しました。
企業主導型保育事業の「魅力」と「ハードル」
企業主導型保育事業の運営には魅力があるように思えます。
しかし、企業主導型保育事業への参入はハードルが高く、また参入できたとしても運営が上手くいくとは限らないのです。
企業主導型保育事業の枠は公募されるのですが、2019年には募集がありませんでしたし、2020年は募集がありましたが、1週間程度で枠がいっぱいになりすぐに締め切りになってしまいました。
また応募する際には、物件を確保しておかなければなりません。採択されてから「物件の契約をします」といったことは認められません。しかし、せっかく物件を用意していたとしても不採択になってしまうことがあるのです。
企業主導型保育事業がスタートした2016年、あるいは翌年の2017年までは、応募すればほぼ採択されていたのでそれでも構わなかったわけですが、2018年以降は応募が殺到するようになったため、不採択になる確率が高くなりました。
以前、筆者の会社でも2カ所目の企業主導型保育事業を名古屋市内で設置する申請を出しましたが、不採択になりました。不採択ですが、ビルのテナント契約はすぐに解約できませんし、設計事務所、開業コンサルタントの費用は成果報酬ではなかったので、結局、1000万円程度を無駄にすることになってしまいました。
このように採択にもハードルがあるのですが、仮に申請が通り、企業主導型保育事業に参入できたとしても安定した運営をするには大きな壁があります。それが園児の募集です。
認可保育所であれば、行政から入園する子どもを割り当てられますが、企業主導型の保育園は認可保育所ではなく、認可保育所並みの運営費が受けられるというだけで、あくまでも認可外保育施設です。そのため、園児の募集は自ら行わなければなりません。
それが上手くいかず、開園して1週間程度で休園してしまうところも少なくありません。実際に参入した企業の4割が定員の半分も園児がいない状態です。経営支援をしている大手コンサルティング会社もあり、筆者も会員になっていた時期がありますが、学習塾で集客経験がある筆者にとっては、どれもが甘い観測でしかなく、会費を払って参加したセミナーで発言したら、コンサルタントに「勉強になりました」と言われて退会しました。
なお、筆者の企業主導型保育園は、2018年の開園時こそ従業員のお子さんだけだったので空きがありましたが、その年の夏から今日まで常に満杯をキープし、入園待ちが常に3、4人いる状態です。
企業主導型保育事業は、園児を集めることができれば、そのメリットを活かすこともできますが、募集される件数も減っているので、これから参入するのは有利とはいえないでしょう。
しかし、保育ビジネスそのものの魅力がなくなったわけではありません。潜在的なニーズは依然高い状態にありますし、事業多角化の一環として、あるいは社員の福利厚生を充実させるために企業が手掛ける意味はあると考えています。
河村 憲良
株式会社Five Boxes 代表取締役
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