「進歩」という理由で文化を破壊しない
台湾には様々な文化がありますが、進歩に付随して文化自体が壊されてしまうケースがしばしば見られました。私がまだ小さい頃に、多くの人々は羅大佑という歌手のヒット曲『鹿港小鎮』を聞いていたと記憶しています。この歌の中に「彼らは故郷のレンガを取り出し、コンクリートの壁にくっつける」という歌詞があります。
コンクリートの壁が意味しているのは、経済の進歩と繁栄です。つまり、故郷の人々が望んだ進歩と繁栄を手に入れる代わりに、自分たちの文化を失ってしまったことを象徴的に表しているのです。これは「持守」とは言えません。彼らが保持している伝統文化を守ることができていないからです。
私の考える「持守」とは、様々な文化が一つか二つ前の世代から、次世代や次々世代まで途絶えることなく受け継がれていることです。進歩という理由で文化を壊したりせず、コンサバティズム(conservatism)という語の本来の意味である「伝統文化を守る」ことなのです。
今朝、私は仕事中に歌を歌いました。それはまさに羅大佑の『鹿港小鎮』でした。しかも今日は少し歌詞を変えて歌ってみました。というのも、私のオフィスのある社会創新実験センターで、歌詞にあるのとは正反対のことをしているからです。
つまり、コンクリートの壁を取り壊し、代わりにレンガで囲いを作って公園を作っているのです。これは開発に伴う破壊ではありません。むしろ、いかに文化を守り抜くかということが、理解されてきたという証拠でしょう。
「保守」という言葉にはいろいろな解釈があります。「堅持するのに値する何かを守る」と解釈するのであれば、私を保守派と呼ぶのは正しいと言えます。しかし、「保守」は時に攻撃的な意味を持ちます。その意味で「他の人が新しい物事を試すことを許さない」と解釈するのであれば、私は保守派ではありません。
私が「持守」という言葉を使うのは、そこに攻撃的な意味合いが含まれていないからです。たとえばベジタリアンは、肉を食べている人を見ても「許せない」などとは思いません。ましてや「私は戒律を守っているのだから、みんなも肉を食べてはいけない」と、上から目線で命令するわけでもありません。
いわゆる保守派の中には「保守とは、自分の意識がどういうものかということであり、他人がどうこうという話ではない」という人もいます。しかし、そういうことでもありません。それは多元主義である半面私が言う「持守」とは意味が異なります。
私は自分が守りたい伝統文化について確たる意識を持っています。そして、それを守るために多くの人を巻き込んで、なんとか実現したいと思って行動しています。「自分が守っていればいい。他人のことは知らないよ」というような傍観者的な態度でいるわけではないのです。
オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)
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