麻酔科医から在宅医へと転身した矢野博文氏は書籍『生きること 終うこと 寄り添うこと』のなかで、「最期までわが家で過ごしたい」という患者の願いを叶えるために、医師や家族ができることは何か解説しています。

「自分がもっと先を見通せていたら…」主治医の後悔

しかし病院から自宅へ帰る介護タクシーの車内で、その甘い考えは完全に否定されてしまいました。山田さんは吸引がなければ気道の小さな痰でさえ出せなかったのです。この状態で家に帰ることは「死」を意味します。山田さんを何とか自宅に運び込み、本人、奧さん、娘さんに現状を説明し、このままでは死に至ることを訴えました。

 

「今自宅に到着したばかりですが、今すぐにでも病院に引き返して、人工呼吸器を着けませんか? そうすれば生命は救えます!!」と訴えました。

 

しかしその答えは「人工呼吸器は装着しない」でした。

 

山田さんは長い長い夜の中で、いつものように考えに考え、この結論を出したことを私は悟りました。山田さんはその日の夕方、家族に見守られながら旅立ちました。主治医がもっと先を見通せていたら、もう少し決定に関して時間的余裕を持てたのでは……という後悔でいっぱいです。
 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

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矢野 博文

 

1957年7月徳島市生まれ。1982年川崎医科大学を卒業。以後病院で麻酔科医として勤務。2005年3月よりたんぽぽクリニックで在宅医療に取り組む。

 

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『生きること 終うこと 寄り添うこと』より一部を抜粋したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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鬼木 一直

幻冬舎メディアコンサルティング

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