「自分がもっと先を見通せていたら…」主治医の後悔
しかし病院から自宅へ帰る介護タクシーの車内で、その甘い考えは完全に否定されてしまいました。山田さんは吸引がなければ気道の小さな痰でさえ出せなかったのです。この状態で家に帰ることは「死」を意味します。山田さんを何とか自宅に運び込み、本人、奧さん、娘さんに現状を説明し、このままでは死に至ることを訴えました。
「今自宅に到着したばかりですが、今すぐにでも病院に引き返して、人工呼吸器を着けませんか? そうすれば生命は救えます!!」と訴えました。
しかしその答えは「人工呼吸器は装着しない」でした。
山田さんは長い長い夜の中で、いつものように考えに考え、この結論を出したことを私は悟りました。山田さんはその日の夕方、家族に見守られながら旅立ちました。主治医がもっと先を見通せていたら、もう少し決定に関して時間的余裕を持てたのでは……という後悔でいっぱいです。
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矢野 博文
1957年7月徳島市生まれ。1982年川崎医科大学を卒業。以後病院で麻酔科医として勤務。2005年3月よりたんぽぽクリニックで在宅医療に取り組む。
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