医師「後悔でいっぱい。」難病ALSの患者…最期の1日の出来事

麻酔科医から在宅医へと転身した矢野博文氏は書籍『生きること 終うこと 寄り添うこと』のなかで、「最期までわが家で過ごしたい」という患者の願いを叶えるために、医師や家族ができることは何か解説しています。

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ALS患者とその家族の、出口の見えない闘病生活

当院の「在宅療養なんでも相談室」から私に、患者さんの紹介がありました。山田さん(仮)は七三歳、病名は筋萎縮性側索硬化症(ALS)です。この病名を聞いてまず頭に浮かんだのは、「今後長いお付き合いになるな……」ということでした。

 

当院では現在も数人のALS患者さんとかかわっていますが、多くの人々は長期のお付き合いになるものです。この病気のやっかいな点は、徐々に、確実に症状が悪化し、最後にはまったく体を動かすことができなくなり、生命維持に必要な食物の飲み込み(嚥下)も、生命の証しである呼吸さえもできなくなってしまうことです。

 

嚥下の障害には胃瘻いろうなどの人工的水分・栄養補給法があり、呼吸不全には人工呼吸器という手段がありますが、患者さんは、症状の進行に伴ってそれらを実施するか否かのつらい選択を、そのつど迫られることになります。

 

これは想像以上につらいことだと考えられます。それらを実施しなければ確実に「死」がやって来ます。一方実施すれば、愛する家族に過大な介護負担を課すことになります。がん末期の患者さんのように終点が見えることもなく、家族と共に暗く、長い、出口のないトンネルに閉じ込められてしまうのです。

「闘えるところまでやってみよう」山田さんの強い決意

山田さんの場合もほかのALS患者さん同様、今後変更はいつでも可能であるという条件付きで、「胃瘻を造設するか否か」「人工呼吸器を装着するか否か」を、初診の時点での希望として伺いました。

 

その回答は、「意識がある間はどちらも実施したい」というものでした。

 

それを聞いたとき、私は若干の不安を感じました。ALSは直接的には意識に影響しません。この病気は意識や知覚はまったく正常なまま、体の運動のみが選択的に不可能となり、自分の体の中に自分自身が閉じ込められてしまうような厳しい病気だからです。


山田さんは自分の考えや意見をはっきり表明する人でした。発病前は産業カウンセラーとして講演を行ったり、不登校の子どもの支援活動などの社会活動にも積極的にかかわっていました。相当の読書家で、玄関脇には書庫があり、道徳、哲学、倫理学などなど多くの本がびっしり置かれ、自身も何冊かの著書がありました。

 

二冊いただき、それを仕事の合間に読んでみたのですが、物事を正面から、じっくり、落ち着いて考え、論理的に決断される人であるとお見受けしました。自身のALSに関しても同様に対応し、自分で闘えるところまでやってみようという、静かですが重い決意を感じました。

 

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たんぽぽクリニック 医師

1957年7月徳島市生まれ。1982年川崎医科大学を卒業。以後病院で麻酔科医として勤務。

2005年3月よりたんぽぽクリニックで在宅医療に取り組む。休日は釣りなどをして海で過ごすことが多い。

著者紹介

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『生きること 終うこと 寄り添うこと』より一部を抜粋したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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鬼木 一直

幻冬舎メディアコンサルティング

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