斬新なビジネスモデルやヒット商品を生み出すには、発想の転換が必要です。重厚で繊細なきものに、普段の生活の利便性をプラスしたところ、「きものが着たかった顧客たち」が戻ってきました。衰退産業を衰退産業たらしめるところに、イノベーションのチャンスがあったのです。きもの業界に長く身を置く筆者が解説します。

理想の商品が欲しいなら、結局、自分でつくるしかない

筆者は「理想の商品が欲しいなら、結局、自分でつくるしかない」のではないかと考えています。筆者は以前から、「汗などの体液がきものに付きにくくなる和装肌着が欲しい」と思っていました。

 

そしてさまざまな商品を試した結果、ある企業が販売していた汗取り用肌着を見つけたわけです。ただし、この商品は筆者の望みに対して完璧なものではありませんでした。上に和装スリップを重ね着しなければならないのが面倒でしたし、一定量以上の汗が出ると、結局、きものに汗じみが付いてしまうのも不満でした。そこで筆者は、もっとよい商品がほかにないか探しましたし、いくつもの問屋に「どこかのメーカーに頼んで、こんな和装肌着をつくってもらえないか」とも頼みました。しかし、対応してくれた問屋は一件もありませんでした。

 

ユーザーが本当に求めるであろう商品が欲しい。その思いを突き詰めていった結果、筆者たちはものづくりに参入することを決めたのです。

内側から局部的に汗を防水するスリップを開発

きものに汗などの体液を付着させないためには、大きく分けて三つのアプローチがあります。一つ目は「吸水」です。前述の汗取り用肌着はこの考え方に基づいてつくられていました。肌から出た汗を肌着で吸い取り、きものに移るのを防ぐやり方です。これは考え方としてはいいのですが、汗が一定以上出て吸水力を上回ると、結局、きものを汚してしまうのが難点でした。

 

二つ目は「防水」です。汗を肌着がシャットアウトする構造なら、きものを汚すことはありません。ただし、防水にすると通気性は失われます。レインコートと同じ素材の肌着を想像してみてください。確かに汗はきものに付きませんが、なかが蒸れて不快になってしまうでしょう。

 

三つ目は「速乾性」です。きもの愛好者にとって定番である綿を採用しなかったのは速乾性に劣るからです。防水していないところの汗がいつまでも留まっていれば、当然滲出していきます。それを防ぐためには速乾性がとても重要でした。

 

満点スリップは、抜群の吸水性と防水性を兼ね備えた防水布を、背中から裾にかけた部分と、脇の下部分に使いました。一方、それ以外の身頃には、通気性があって吸汗速乾性にとんだニット素材、スポーツウェア用の生地を採用したのです。これにより快適さを保ちつつ、きものを汗じみ汚れから守ることができるようになったのです。

 

内側から局部的に汗を防水する機能がある満点スリップは、画期的な商品でした。ところが、発売当初はまったく売れなかったのです。最初の数ヵ月は、1ヵ月に1~2枚売れるのがやっとで、お客さまに役立つ商品ができたと確信していた筆者は、大きなショックを受けました。でも、満点スリップのために特殊な生地を買うなど、500万~600万円ほどの初期投資をしていたため、あとに引けません。失敗したらどうしようという不安で胸が潰れそうでした。

 

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衰退産業でヒット商品を生み出す4つの法則

衰退産業でヒット商品を生み出す4つの法則

髙橋 和江

幻冬舎MC

旧態依然としたきもの業界で、赤字経営から脱却。年10%以上のペースで売り上げを伸ばしてきた社長が解説。 古い業界だからこそ風穴は開けられる! 市場縮小が進む業界の状況を打破し、東日本大震災に見舞われながらも、ひ…

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