かつてのステータスシンボルも「タンスの肥やし」に
ではここで、きもの産業の衰退の道筋を、データを引きながら説明していきたいと思います。
昔は、日本人の日常着がきものだったことは皆さんご存知のとおりです。明治以降、西洋文化が流れ込んできたことと、戦争を挟んで一気に洋服化が進むなかで日常着としてのきものは衰退しました。しかし、これがいまのきもの産業の衰退の理由ではありません。きもの産業は戦後の高度成長期に、きものを女性のステータスシンボルへと押し上げました。これにより、「特別な日に着る特別な衣装」と位置づけた高級なきものをどんどんつくり出したのです。
女性が家事の一環として洗いも仕立ても家のなかでこなし、日常着としてきものを着ていた時代から、まだ100年も経ってはいませんでした。ですが、衣類が一気に洋服化し、そのまま衰退してもおかしくないのに、きものは見事に復活。ブランディングに成功したからでしょうか、シャネルやルイ・ヴィトンの商品を買う感覚で、たくさんの女性が高級きものを買いまくったのです。
当時の日本は高度成長期、経済大国でした。高いお金を出して高級きものを買いあさる人々のおかげで、きもの業界は我が世の春を謳歌したのです。当時はそれでも問題はなかったのです。
潮目が変わってきたのはバブル崩壊の少し前、1980年代半ばくらいのことです。
1959(昭和34)年生まれである筆者の世代にとって、結婚式などの冠婚葬祭にはきものを着て参加するのが常識でした。また、結婚を控えた女性はお花やお茶など何かしらのお習い事をするのが一般的で、黒留袖や喪服、訪問着などきもの一揃いを「嫁入り道具」として準備するケースが多かったのです。特に田舎では、和箪笥1棹がいっぱいになるくらいは用意しないと恥ずかしいという意識が、筆者の親世代には強く残っていました。
ところが、筆者より数歳年下の世代から、そうした意識は徐々に変わっていきました。一般家庭ではきものを普段着として着る習慣がなくなり、きものを自力で着られる人がどんどん減っていきました。また、冠婚葬祭で洋服を着る人が増えたこともあり、高級きものはますます箪笥の肥やしになっていったのです。
都会の狭い居住空間で生活している女性などにとって、きものは収納場所をとる厄介ものになりつつありました。「着る機会もないのに、たくさんのきものをもっていても意味がない。そもそも、狭い部屋に大きな和箪笥を置くのは邪魔」と考えるのは当然で、家具などももて余すようになり、邪魔にならない現金が嫁入り道具の主流になりつつありました。衣食住のすべてが激変したのでした。
きものに関わる企業も、厳しい状況に追い込まれ…
こうした傾向が続いた結果、きもの業界の市場規模は徐々に小さくなっていきました。きもの業界は、俗に「2兆円産業」といわれ、業界がピークを迎えた1974〜1975年の市場規模は約1兆8000億円から2兆円とされていました(全日本きもの振興会ホームページより)。
ところが、きものと宝飾社の調査によれば、2007年には5000億円を割り込み、2018年には2875億円と過去最低を更新しています(図表1)。40年弱で、市場規模は6分の1以下になった計算です。
こうしたなか、きものに関わる企業の多くは厳しい状況に追い込まれています。
例えば2017年には、きものスクール「装道礼法きもの学院」を全国展開していた装いの道が、民事再生法の適用を申請しました。また2020年には、リサイクルきもの店「たんす屋」を運営していた東京山喜が民事再生法の適用を申請しています。
どちらも、きものに関心が薄い人ですら耳にしたことがあるほどの有名スクール・有名店でしたが、あっさりと破綻してしまいました。ほかにも、たくさんの企業が倒産の憂き目にあっているのです。
髙橋 和江
有限会社たかはし代表
和装肌着製造メーカー「たかはしきもの工房」代表
きものナビゲーター
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