世界人口は予測では今後も増え続けますが、実は増加率は1967年をピークに低下し続けています。そもそも、人間も生物なので、繁栄の頂点ののち減少トレンドに突入するという宿命は免れられません。しかし、それは「滅亡」に向かうネガティブなものではなく、「経済成長」というゲームを終わらせ、「真に豊かで生きるに値する社会」を成すという明るい未来だと山口周氏は指摘します。世界人口の今後の動きについて解説します。※本連載は山口周著『ビジネスの未来』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

ロジスティクス曲線が示唆するもの

さて、全世界のGDPおよび人口の成長率はとっくにピークを迎えており、以降半世紀にわたって明確な低下・減少のトレンドにあります。

 

では、この世界人口の見通しにはどれくらいの蓋然性が見込めるのでしょうか。実は人口増加率の予測は非常に難しく、過去に国や国際機関が行った予測は何度も大外ししているのですが、近い将来、全地球規模の人口が一定の数を上限として定常状態に入らざるを得なくなるであろうことは数多くの研究機関・学者によって指摘されています。

 

その根拠となっているのが、いわゆるロジスティクス曲線です。ロジスティクス方程式は、生物の個体数の変化の様子を表す数理モデルの一種です。一定の環境条件の中、たとえば孤立したコロニーに、そのコロニーの環境条件によく適合した生物種を放つと、初めに少しずつ増殖した後、ある時期から急激な増殖期を迎えたのち、環境が許容する一定の密度・容量に個体数が近づくにつれ、増殖率は減速して収束に至り、以降は安定平衡期に入ります。これをグラフで表現すれば図表3のようなS字型の曲線を描きます。

 

[図表3]ロジスティクス曲線

 

具体的にはロジスティクス曲線は[dN/dt=rN(1-N/K)]という微分方程式で表されます。ここでNは個体数を、tは時間を、dN/dtが単位時間あたりの個体数の増加率を意味します。rは内的自然増加率、Kは環境収容力と呼ばれる定数です。つまり個体数=Nが増えて環境収容力=Kに近づくほど個体数増加率が減っていくというモデルになっているわけです。

 

ちなみに図表3のグラフでは増殖ののちに安定平衡期に入っていますが、これは「成功した生物種」に見られるパターンであり、ある種の生物種は繁栄の頂点ののちに減少トレンドに突入し、そのまま滅亡することもあります。恐竜はその典型例と言えます。私たち人間も地球という有限な環境のなかに生息する生物ですから、このロジスティクス曲線の宿命を免れることはできません。

 

グローバル化というのは1990年代以降、さかんにいろいろなところで言われるようになった言葉ですが、つくづくアイロニカルな含みのある言葉だと思わざるを得ません。グローバルの語源はもともとグローブ、つまり「球」です。球には「端っこ」がありませんから、その表面で版図を広げようとする人にとって、一見何の制約もない無限の空間が目の前に広がっているように思えるでしょう。

 

しかしトポロジカルにはこれもまた閉域でしかありません。ここに「有限性」というキーワードが浮かび上がってきます。大航海時代以来、世界各国は市場を拡げることを企図して地理的な拡大を志向してきたわけですが、そのような取り組みを数百年にわたって続けてきた結果としてもはや進出すべき空間がなくなってしまった状況、「閉じた球の有限性」が明らかにしてしまったわけです。この状況は、私たちの社会が「高原への軟着陸」というフェーズに入りつつあることを示しています。

 

「高原への軟着陸」とは、「経済成長」というゲームを終わらせ、「安全で便利で快適な(だけの)世界」から「真に豊かで生きるに値する社会」へと変成させていくこと。私たちは閉ざされた「停滞の暗い谷間」ではなく、「成熟の明るい高原」へと向かっているのです。

 

山口周

ライプニッツ 代表

 

 

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