STEAM教育のサイエンスとテクノロジーの重要性
STEAM+D教育の根幹となるサイエンス(S)とテクノロジー(T)
デジタルの進展に従って、サイエンス(Science =科学)、テクノロジー(Technology =技術)、エンジニアリング(Engineering =工学)、アート(Art =芸術)、マスマティックス(Mathematics =数学)を統合的に学習する「STEAM」教育の重要性が言われています。さらに最近ではデザイン(Design)を加えて、「STEAM+D」と呼ばれる傾向にあります。
最初の二文字のSとT、つまりサイエンスとテクノロジーに関する教育の重要性は、以前から指摘されていました。これに科学技術の応用である工学(Engineering)と科学技術の根幹である数学(Mathematics)が加わりました。しかし、これら二つの教育はサイエンスとテクノロジーの延長線上にあります。そう考えると、単にこの二つをどう使うかを教えるだけでいいのかという声も出てくるでしょう。
結局のところ、サイエンスやテクノロジーをイノベート(革新)していくためには、創造性が不可欠なのです。その使用法をいくら教えても意味はありません。そのため、創造性を養うことにつながる芸術(Art)が追加されたのです。
しかし、「芸術を創造する」というとき、特定の目的のためだけに使われるとは限りません。芸術は時としてまったく目的なしに創造される場合もあります。何か目的を持って創造したものは「デザイン」と呼ばれるものです。そのため、さらにデザイン(Design)が加わるようになったのです。
それはあたかも、もともとは「レズビアン(lesbian)」と「ゲイ(gay)」から「LG」と呼ばれていたものに、それだけでは性的マイノリティを網羅していることにならないため、「バイセクシュアル(bisexual)」と「トランスジェンダー(transgender)」が追加されて「LGBT」と呼ぶようになったのと同じです。結果的に、さらなるマイノリティが加わり、現在では「LGBTQ」や「LGBTQIA」「LGBTQIA+」とも言われるようになりました。
とはいえ、「STEAM+D」教育といっても、根幹は科学と技術(SとT)にあります。教育が進めば進むほど、様々な分野のものを次々と取り込みたくなりますが、核心はサイエンスとテクノロジーにあるというのが私の意見です。その理由は、科学技術とは一つのコミュニティであり、自分の考えや実験を発表することをためらわない場所だからです。それはソーシャル・イノベーションの出発点となる場所であり、ここから社会は発展していくからです。
その意味では、より多くの人が科学者・技術者になることができるようにしていくことが大切で、そのためには「科学技術の分野をもっとオープンにしていく」ことが重要になります。
一般的に、科学者というと、一つの仕事あるいは職業というふうに考えますが、最近では一日のうちわずかな時間を割いて貢献するだけで「市民科学者」になることができることが少しずつ知られてきました。たとえば、大気や水質などの測定をしてネット上のプラットフォームにデータを送るだけでも、科学者の一員になることができます。
つまり、そうした行為を通じて、科学分野における仮説の形成あるいは仮説の検証、さらには発表といったものに参加しているのです。一日すべて使うわけにはいかなくても、誰もが同じ関心や願望を持つ人たちと一緒になって、科学という大きな仕事の一部分を担うことができるのです。
このような行為を通じてその人の貢献が知られるようになると、「より大きな貢献をしよう」というモチベーションにもつながります。そのために、科学のコミュニティの発展はオープンな方式を通じて、多くの人が「科学者とは何をしているのか」を理解するところから始まると思います。