いま、弁護士や税理士などの士業は過渡期を迎えようとしています。「AIに仕事が奪われる」との声も……。しかし、士業のすべてなくなるわけではなく、人間にしかできない仕事がまだまだあります。AIやITなどの技術革新が続くなか、士業の仕事に付加価値をつける方法を税理士、公認会計士、心理カウンセラーとして活躍する著者が明らかにします。本連載は藤田耕司著『経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部を抜粋し、再編集したものです。

「〇×士だからこそ、この仕事をしている」

保険会社の営業の仕事をしている公認会計士がいます。公認会計士としての仕事の経験から得た知識や経験を活かし、会社の経営について助言したり、監査法人の勤務経験から公認会計士のライフプランの相談に乗ったり、公認会計士の業界で培った人脈を活かして多くの会計事務所と提携したりするなど、独自の営業を展開しています。

 

また、司法書士業務を通じて得た知識と経験、人脈などを活かし、一般的な不動産会社では手がつけられない法律問題が複雑に絡んだ土地を扱う不動産事業を行っている司法書士もいます。

 

彼らは資格を持っていることで得られる独自の強みを発揮して、資格を持たない同業者では扱うことが難しい仕事を開拓しています。

 

二刀流の営業フレーズ

 

二刀流の営業では、「〇×士だからこそ、この業界でこういった仕事をしている」と表現するのが重要です。具体的なフレーズを紹介します。

 

「不動産取引は法律が複雑に絡む事案もあり、そのような取引で法律に詳しくない業者から購入して、購入後にトラブルになる事例をたくさん見てきました。だからこそ法律の専門家が不動産に関わるべきだと思い、不動産関連の事業を行っています」

「税理士として保険の営業マンと話すと、税法の知識不足を感じることが多く、そのような知識での保険の提案は非常に心もとなく感じました。そこで、保険の提案にも税の専門家が関わるべきだと思い、保険関連の事業を始めました」

 

私は「公認会計士×心理学」という組み合わせで、経営心理学をベースに経営コンサルティングやセミナー事業などを行っています。決算書の数字の背景には必ず人の行動があり、人の行動の背景には必ず心の動きがあります。そのため、数字を良くするためには心の理解を深め、お客様、従業員といった人の心を動かす力を身につける必要があります。

 

だからこそ、数字の専門家である公認会計士が心理学を教える必要があるとお伝えすると興味を覚える方は多く、全国から経営者や士業が経営心理学を学ぶ経営心理士講座を受講しに来てくださいます。最近はAI時代に向けて新たな付加価値を付けたいという士業の受講生が増えています。

 

行政書士の石下貴大氏は、「行政書士×教育事業」という切り口で行政書士向けに「行政書士の学校」という講座を開催しています。行政書士は人を雇わず一人で経営する事務所が多いため、行政書士試験に合格しても事務所に就職せずに実務経験のないままに独立するケースが多いのが実情です。

 

ただ、実務を知らずに仕事を受けるのは大きなリスクを伴います。そこで、行政書士試験合格者向けに実務を学べる講座を開催し、各専門分野で申請書の書き方や役所との交渉方法、契約上の留意点など、実務上のポイントを教えています。延べ1万人以上、現在年間約1500人が受講しています。

 

また、士業として培った知識と経験を活かして、不動産、金融、ITなど、従来の士業の枠にとらわれないビジネスを展開する中で、申告、申請、登記、社会保険手続きなど、士業としての仕事の依頼が来ることもあります。

 

発想の枠を広げて「〇×士だからこそ、この事業を」という必要性を見つけると、士業の資格が新たな価値を持ち始めます。こうした発想は新たな事業の展開につながると同時に、従来の士業の仕事もさらに増える可能性をも秘めています。

 

藤田耕司
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
FSGマネジメント株式会社代表取締役
FSG税理士事務所代表
公認会計士、税理士、心理カウンセラー

 

 

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経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事

経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事

藤田 耕司

日本能率協会マネジメントセンター

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