安定した中小製造業がM&Aを志向したきっかけとは?
ここでは、高値売却に成功した中小製造業のM&Aを、実例を通して紹介していきます。各企業とも、マッチング相手のニーズを上手に探り出すことで、自社の評価を高めることができた事例です。
[実例1]譲渡先企業にない製造工程を武器に高値で売却
金属切削加工業 資本金2000万円 売上高2億円 従業員数8名
譲渡額:1億3000万円、役員退職金:社長と副社長の2人に合計5000万円
松尾工業株式会社(仮名)は、金属加工会社として創業20年目を迎えようとしていました。
金属加工でも主に切削に特化していて、創業当初は自動車部品向けの仕事が多かったものの、徐々に産業機器向けの部品などにも仕事の幅を広げていきました。時代のニーズに合わせた少量多品種生産体制を構築したことで、売上高は2億円まで伸びていきました。
松尾社長を入れても8名と小規模でまさに中小製造業という会社でしたが、その分だけ社内はアットホームな雰囲気です。仕事に関してもトラブルは少なく受注にも波はなく安定しており、皆が活き活きと働いている会社でした。
ただひとつ不安だったのは、46歳で同業界から独立し、創業した松尾社長がすでに66歳だったことです。本人も体力には自信があり、まだまだ精力的に営業活動を続けていましたが、60歳を超えた頃からふと会社の行く末について考える時間が増えるようになりました。
従業員には30代の甥が1人いましたが、あとは前職の同僚や後輩なのでほぼ同年代です。この先1〜2年で経営に問題が起こるようなことはないとは思っていましたが、いざ自分が70歳を迎えた時にこのまま会社を引っ張っていくべきか心配になったのです。
従業員のためにも会社を存続させたい・・・
松尾社長には息子が2人いましたが、2人とも子どもの時から優秀で、兄は大手商社、弟は大手製造業でそれなりの役職についています。たまに実家に顔を出した時にも仕事でのやりがいを口にしていて、後を継いでもらうには忍びないと考えていました。
経営の片腕である副社長も一緒に会社を興した仲間のひとりで、社長よりも二歳年下です。副社長の子は娘だけですでに嫁いでおり、副社長の親族に後継者候補はいません。副社長は以前から自分はトップの補佐役が適していると口にしており、同社の品質管理面を担ってくれています。
ある時、副社長と話をする機会があり、社長と一緒に引退したいと考えていると打ち明けられます。社長をサポートすることが自分のやりがいだったので、自分が社長になることも考えられないし、だからといって他の社長の下につくことにも抵抗があるということだったのです。そこで、副社長からもし事業を存続させることを考えるならM&Aを検討してみてはどうでしょうという提案をされました。
社長も後継者が見つからないことから、場合によっては廃業も視野に入れるべきなのかと思っていました。しかしまだまだ働きたいと言っている従業員もいたため悩みを抱えていましたから、副社長の提案により本格的にM&Aを検討することにしたそうです。