前回は、中小製造業を高値で売却するコツについて説明しました。今回は、隣接業種内でM&Aを行うメリットとデメリットについて見ていきます。

従来は完成品メーカー主導型のM&Aが中心だったが・・・

自動車産業に代表される製造業は、金融業・サービス業・販売業など他の業界とは違って、一次下請けから十次下請けまで幾重にも重なるピラミッド構造を構成していることが特徴的です。

 

廃業によって部品供給のシステムが崩れ、場合によっては生産システム全体の変更が余儀なくされることを説明しましたが、廃業されるくらいなら買い取ろうというのが縦軸のニーズです。売り手は廃業によって迷惑をかけずに済みますし、買い手にとっても事業の幅が広がるというメリットがあります。

 

従来、同一製造ピラミッド内における縦軸のM&Aは、製造業において珍しくありませんでした。それは、前向きなものではなく、どちらかというと旧来型の吸収・合併です。ピラミッド内で二つの工程が一つになることで、無駄を省きコストの圧縮や生産能力の増強に結びつきます。

 

また、どちらかの企業の経営状況が悪い場合にも製造ピラミッド構造を安定させるために吸収してリスクヘッジをするという場合もあります。これらの縦軸のM&Aは完成品メーカーである大手製造業からの要請で行われることが一般的です。

 

こうした完成品メーカー主導型のM&Aではなく、自社の事業を生かすM&Aの手法を考えていきましょう。

加工技術の幅を広げ、新たな市場開発につなげられる

●同ピラミッド内の隣接業種①

 

従来型の吸収合併から分かるように、製造ピラミッド内の縦軸でまず、考えられるのは前後の工程にあり、関連する仕事を請け負っている企業とのマッチングです。

 

例えば、プレス加工の会社と、その後工程を担う特殊な熱処理加工をする会社という場合です。従来、類似業種の場合、お互いに重複する工程も行っている場合もありますが、特殊な熱処理加工を同時に行っている企業はほとんどありません。

 

そこで、特殊な熱処理加工を行っている会社をM&Aすることで加工技術の幅が広がり、新たな市場開拓にもつなげることができます。また、2つの工程をまとめたことにより、納期の短縮やコスト削減ができ、競争力を高めるとともに利益の幅も大きくすることができます。

 

このケースでのデメリットは、隣接業種ということで譲渡側に抵抗感が生まれやすいことです。特に狭い業界の場合には、買い手側が他の都道府県にある企業だとしても体裁を気にして首を縦には振りにくいかもしれません。

 

●同ピラミッド内の隣接業種②

 

次に考えられるのは、同じ縦軸でも製品をアッセンブリ化する工程とのマッチングです。

 

例えば、樹脂を成形して一つのパーツを提供する中小製造業と、次にそのパーツとその他プレスの部品などとをアッセンブリ化(組み付け)する中小製造業があった時に、その2つの企業の間でM&Aが発生するパターンです。

 

樹脂の成形を行っている中小製造業からすれば、次の段階まで仕事の幅を広げられます。また、樹脂の成形からアッセンブリ化まで一括して請け負うことで、一部品メーカーからアッセンブリメーカーとしての販路まで拡大することができます。

 

また、お互いの間で発生していた運送費や手数料などが不要になるためコスト削減ができ、発注元となる完成品メーカーとしても仕入先管理の効率化やコスト削減にもつながる可能性があります。

 

このケースでのデメリットは、前述のケー譲渡側に抵抗感が生まれやすいことは避けられないスと同様に、隣接業種ということでという点です。

本連載は、2016年4月27日刊行の書籍『中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方

中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方

浅岡 和彦

幻冬舎メディアコンサルティング

自分が高齢になってもその技術や従業員を守っていきたい、自社の技術を信頼してくれる取引先に迷惑をかけたくない──これは中小製造業の社長に共通する願いでしょう。 しかし、社長の思いに反し、多くの会社がいま存続の危機…

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