日本人の平均寿命が延びているなか、これまで築き上げた資産がなくなるまでの期間、すなわち「資産寿命」が短いと、自分のやりたいことができません。今回は、お金儲けをしようと思った投資未経験者が、退職金で投資デビューするときの注意点について解説します。※本連載は、大江英樹氏の著書『資産寿命 人生100年時代のお金の「長寿術」』(朝日新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

「投資」と「投機」を混同していはいけない

投資に対して抵抗がある、という人は多くいます。その理由の一つに、「投資」と「投機」を混同していて、投資するというと何か博打のようなものだと思っている人が多いことが挙げられます。

 

筆者は投機が別に悪いことだとは思いませんが、投資とはそのやり方が明らかに違います。投資はお金を投じる先の「価値」が向上することに期待する行為ですが、投機は、お金を投じる対象の「価格変動」に賭ける行為です。価値が向上するかどうかはある程度投資先の企業分析をすれば予測できますが、価格の変動は予測できません。

 

したがって、投機の方が投資よりもはるかに難しいと筆者は考えています。こういう誤解もそうですが、それよりも根本的な誤解は「投資による儲けは不労所得」と思っていることです。しかし、投資は決して楽をして儲かるというものではありません。

経営者は「リスクを取って判断し、結果の責任を負う」

多くの人が「働く」という言葉を聞くと思い浮かべるのは、製造、販売、管理といった具体的な仕事のイメージです。でも働くというのはそうした目に見える労働だけではありません。

 

例えば企業の経営者というのはどんな仕事をしているのでしょう。彼らの最も重要な仕事は「判断する」ということです。会社が持っている経営資源、従業員や資本や設備等をどの分野に投入すれば最も高い利益が得られるかを考え、判断するのが仕事なのです。

 

トヨタ自動車の社長は自分では自動車を組み立てることはないでしょうし、パナソニックの社長が店頭で冷蔵庫を売ることもないはずです。でも彼らは別に仕事していないわけではなく、「経営する」という仕事をしています。経営というのは「リスクを取って判断し、その結果の責任を負う」ということです。

 

でもこれって何かと似ていませんか?

 

そう、まさに投資家がやっていることなのです。「何に投資すべきか」「それをいつやるべきか」「いつ売って利益を回収するか」等々、すべて自分の頭で考え、分析して実行する。利益が出ても損が出てもそれは投資家の責任ですから、投資家がやっているのはまさに経営者がやっていることと同じことです。

投資家の仕事も「リスクを取ること」で、経営者と同じ

したがって、投資家は決して楽をして儲けているわけではなく、「リスクを取る」という仕事をしているのです。一度でも会社を経営したり、自営だったりした経験を持つ人ならこの感覚は容易に理解できます。

 

でもサラリーマンにはなかなかこれがわからないのです。結果、「投資は楽をして儲けることだ」と思い込む、中には「株をやる奴なんか人間のクズだ」とまで言う人もいます。

 

そういう人が、一生投資をしないのであれば、それはそれで良いのです。投資の世界に入らないのであれば誤解しようがどうであろうがその人の自由です。でももし資産寿命を延ばすために少しでも投資をしてみようと思うのであれば、投資を甘く考えない方が良いでしょう。

 

ありがちなパターンは、それまで投資を軽蔑してきた人が退職金を貰って急に「儲けたい」という欲が出てきて投資を始めることです。

 

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大江 英樹

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