トヨタの保全マンの仕事は故障した機械を修理することだけではない。直したうえで、その後も故障が出ないような予防保全を目指している。壊れる前に壊れないようにする保全は、他社ではあまり行われていないという。日頃から行われる海外工場の支援でも、予防保全の仕方が指導されている。人材育成の教育や、保全の力を維持するための勉強も欠かさない保全マンの仕事ぶりに迫る。本連載は野地秩嘉著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

他社とはひと味違う?トヨタの「保全マン」

これまでの連載のなかで、トヨタの危機管理における大きな特徴のひとつに「卓抜な保全の力」を挙げた。では、同社の保全マンは他社と比べてどこが違うのか。どういった仕事をしているのか。

 

トヨタの事例を説明する前に、まず保全には「事後保全」「予防保全」「予知保全」という3種類があることを伝えておかなくてはならないだろう。

 

事後保全とは設備、機械、システムの機能が停止したり、パフォーマンスが低下したりした場合、原因を究明して対処することだ。

 

予防保全は、さらに「定期メンテナンス」と「予防メンテナンス」に分かれる。

 

定期メンテナンスは文字通り、設備、機械、システムを安定的に稼働させるため、点検、修理、部品交換を定期的にやること。

 

予防メンテナンスは設備、機械、システムを安全に稼働させるために行う活動。部品がどれくらい劣化しているかを調べて交換する。

 

予知保全は兆候管理でもある。異常が出そうな兆候を認めたら、素早く予防メンテナンスを実施して対処することだ。そうした地道な日々の業務がトヨタの安定した生産と品質を支えていると言っても過言ではない。そして、危機管理や支援活動もトヨタの保全マンの1つの使命である。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

トヨタの保全の力については、おやじの河合満、そして、エンジンを作る上郷工場の斉藤富久工場長に聞いた。

 

ふたりが使う言語は三河弁だ。たとえば「こわける」という言葉がある。わたしは部品を小分けにすることかと思っていたら、そうではなく、「壊れる」の意味だった。

 

わたしが、おやじに聞いたのはトヨタの保全と他社のそれとの違いである。

 

河合は言った。

 

「まず、うちは人数が多い。よそはうちの6割くらいでしょう。それだけではない。トヨタはどの工場の各部、各課も保全マンを抱えているし、特に予防保全に力を入れている。予防保全、つまり、こわける前にこわけないようにする保全は他社はあまりやっていないね。

 

それと、海外工場の支援を日頃からやっているんですよ。うちは『トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)』というシステムで、車台や部品を共通化しています。工作機械も共通だから、海外工場から突発的な故障について質問が来てもすぐに対処できる。

 

新型コロナ危機では保全も海外出張できなかったから、リモートで機械の故障を直す指導をしていた。

 

保全はいったん、危機が来たら協力会社や一般のところへ支援に行きます。それも復旧するだけでなく、工作機械の故障まで直してくる。ついでに、不良品が出ないような指導もしてくる。小さな工場だと保全マンがいないところもあるんですよ。そういうところに行って保全のすべてを教えてくる。

 

そして、これはうちにとっては人材教育なんです。教えるためには自分が勉強しなくちゃいかん。僕は言ってるんだ。協力会社へ派遣したら、先方の方たちに『こいつら(トヨタの保全係)から教わるだけでなく、現場とは何かを厳しく教えてやってくれ』と。

 

保全マンは先生じゃない。同じ立ち位置でいろいろなことを勉強させてもらう。それで勉強させてもらったら、その恩返しにひとつぐらい何かいいものを置いてこいよと言っとるんだ。向こうが不良で困っとるとする。自分がノウハウを持っていたら、それをちょっと教えてこい、と」

 

トヨタの保全マンは修理するだけではない。直したうえで、その後も故障が出ないような予防保全の仕方を指導する。

 

そして、彼らは保全の力を維持するために勉強を欠かさない。たとえば電気制御、センサーといった機器の場合、技術の進歩は日進月歩(古い)というか、昨日の技術はもう通用しない。だから、IT、制御については日々、知識の習得とスキルアップに励んでいる。

次ページ「壊れる前に直す」…上郷工場「保全マン」の日常
トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

野地 秩嘉

プレジデント社

コロナ禍でもトヨタが「最速復活」できた理由とは? 新型コロナの蔓延で自動車産業も大きな打撃を受けた―。 ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字となる中、トヨタは当然のように1588億円の黒字を達成。 しかも、2021…

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