税務メリット大…迫る「認定医療法人」の認定再開
2017年(平成29年)10月に認定医療法人制度が改正され、当制度活用による持分なし医療法人への移行時の税務メリットが大幅に拡充されました。これに伴い、以来認定医療法人の認定を受ける法人の数は増加しています。
当制度は2020年(令和2年)10月以降、休止となっておりますが、近々再開される見込みです。なお、その際の認定期限は2023年(令和5年)9月30日までとなります。
今回は、もう間もなくの制度再開を前に、認定医療法人制度について、改めて制度概要やメリット・デメリットなどについて確認していきたいと思います。
持分あり・なしを選ぶ基準は「経営がうまくいくほう」
認定医療法人制度は、持分あり医療法人が持分なし医療法人へ円滑に移行することを目的とした制度ですが、筆者自身、医療法人やその関係者から、「持分あり医療法人と持分なし医療法人とでは、どちらの制度が優れているのか」というご質問を受けることが多くあります。
これについては答えのない論点であり、結論は存在しないというのが正直なところです。
しかしながら、制度としてではなく、その個別の医療法人単体としてどちらの制度の方が経営をスムーズに安全・安定的にできるかという論点で考えた場合には、出資者の想いや医療法人としての将来像、後継者の有無などケースバイケースではあるものの、一定程度の答えが出せるのではないかと考えています。
メリットにもデメリットにもなる出資持分の払戻請求
<持分あり医療法人の特徴>
持分あり医療法人であれば、安定した経営により出資持分が増大するため、親族後継者へ法人を承継する際には、出資持分の贈与・譲渡に伴い後継者に対して多額の贈与税若しくは多額の譲渡取引などの資金負担が発生することになります。この資金負担は億単位になることも少なくありません。
なお、本来、医療法人の承継について法的には社員、理事等の変更を行うことで完了しますが、実務的には出資持分の異動が伴うことが多くなっています。
実際の例では、親族後継者に法人を承継したいという想いがありながらも、資金負担の観点から承継を断念したというケースも散見され、長年行ってきた親族経営を諦めざるを得ない状況も発生しています。
また、後継者不在の場合においても、出資者死亡によって遺族が医療法人の出資持分を相続するケースもあります。このような場合、現実的には出資持分を現金化できない状況が多く、現金化できない財産を相続したにも関わらず多額の相続税の納税義務が発生するという遺族にとっては極めて厳しい状況に陥ってしまう恐れがあります。
出資持分は医療法人の議決権とは異なるものであることや配当を受けられないことを考慮すると、生涯現金化できず保有していても何ら恩恵を受けることのない財産を相続することになってしまいます。事実上、相続税という負債を相続することであり、遺族にとっては非常に大きな問題となります。
ただ、出資者の構成やその出資持分の評価額の状況によっては、出資持分を現金化することが可能な場合もあり、そのような場合には一概に出資持分を相続することがデメリットとなるわけではありません。出資持分の払戻しを請求することによって、それまでの経営実績に応じて現金等で受け取ることができ、この点については持分あり医療法人出資者のメリットとなる場合もあります。
これは長年の経営の評価としても捉えられるため感情的にも金銭的にも出資者としては持分あり医療法人のまま存続することの大きな理由となります。
とはいえ、この出資持分の払戻請求は、法的には出資者が社員を退社する際に医療法人に対して請求する権利として与えられているものであり強制力を持ちます。出資者としてメリットであるとともに医療法人経営においては大きなデメリットであることも忘れてはいけません。