無税で「持分なし医療法人の移行」が認められる要件
持分なし医療法人への移行は、手続き上は定款の変更を行うことで成立します。この定款の変更は、他の定款変更手続きと同様、管轄する都道府県庁等に対して定款変更認可申請し、認可を受けるというもので決して難しいものではありません。
問題はその課税関係にあります。持分あり医療法人への移行時にはその医療法人に対して多額の贈与税が発生する可能性がありますのでその点について説明していきます。
移行の手法は大別すると以下の3種があります(図表1)。
A(図表1)は、持分なし医療法人のうち社会医療法人や特定医療法人となれば、移行時の法人にかかる贈与税は発生しないというものです。また、社会医療法人、特定医療法人でなくてもそれと同等の要件を満たしていると税務当局が判断すれば同様の取扱いとなります。
ただ、この要件を満たすためには社会医療法人や特定医療法人の規定である親族役員等要件や役員数要件など下記の要件を満たす必要があり、多くの医療法人は満たすことができません。
【贈与税非課税となるための要件】
(1)運営組織が適正であること
①一定の事項が定款等に定められていること
(理事定数6人以上、監事定数2人以上ほか)
②事業運営及び役員等の選任等が定款等に基づき行われていること
③その事業が社会的存在として認識される程度の規模を有していること
(救急医療等確保事業に係る業務の実施ほか)
(2)役員等のうち親族割合1/3以下であること
(3)医療法人関係者に対する特別利益供与がないこと
(4)残余財産の帰属先が国、地方公共団体等であること
(5)法令違反等の事実がないこと
次にB(図表1)ですが、これは認定医療法人となることにより移行時の贈与税を非課税とする手法です。平成29年10月1日に認定医療法人制度が改正され、非常に使い勝手の良い制度になりました。認定医療法人制度の概要は図表3をご参照ください。
認定医療法人となるための要件は、A(図表1)の要件を緩和したイメージとなっており、具体的には、概ね上記Aの要件から、下記を削除したものとなっています。
●理事6名以上監事2名以上という役員の定数要件
●役員等の親族割合1/3以下という親族役員要件
●社会医療法人の要件である救急医療等確保事業に係る業務の実施要件
認定医療法人の認定要件については図表4をご参照ください。
Aの要件を満たす上で、一番の障壁となっていた3つの要件が認定医療法人制度では削除されているため、相続・承継で頭を抱えている持分あり医療法人が、無税で持分なし医療法人に移行する際には認定医療法人制度が多く活用されています。
ただし、この認定医療法人制度は持分なし医療法人移行後6年間その認定要件を継続して満たす必要があり、満たせなくなった場合には持分なし医療法人移行時に非課税となった贈与税を遡って納付する義務が発生するため注意が必要です。
最後にC(図表1)についてですが、これは特に要件などはなく、定款変更を行うことのみで持分なし医療法人へ移行する手法です。この場合、細かい要件がない代わりに移行時に医療法人が贈与税を納めることになります。
認定医療法人制度は「相続対策としての移行」に有益
以上の通り認定医療法人制度は、相続税対策としての「持分なし医療法人への移行」にあたっては非常に有益な制度となっています。
現在は休止中である当制度も、近日再開される見込みですので、相続税負担が不安な方や事業承継を考えている方は、一度検討されることをおすすめします。
一方で、持分なし医療法人にもデメリットがある他、持分あり医療法人に戻ることはできません。したがって、その検討は専門家等を交えて慎重に行うべきでしょう。後悔のない相続税対策を実施するためにも改めて制度を理解しておきましょう。
中村 慎吾
税理士法人名南経営 医業経営支援部 担当部長
株式会社名南メディケアコンサルティング 部長